ゲストは常にストーリーを求めている
時に1988年の春、クリスタル・クルーズ社はこれから造る新造船の建造と同時に、クルーズでのライフスタイルのコンセプトの構築に多くの時間が割かれたのです。
新しい客船の建造は、設計段階がある程度まとまれば、後は造船所の強い意思の元で、予定通りのプログラムで建造が可能であると見込まれるのです。
その新造船の就航まで通常 2 年。この間に新しいクルーズ運航会社将来の運命が決まると思われていたのです。
そこにはクルーズ客船事業を構成し、 客船本体のハードウェアと、船上におけるゲストのライフスタイル構築のソフトウェアの2つの側面からのシミュレーションが必要でした。
これから始めるクルーズ客船会社に乗船するクルーズ船客の滞在の舞台は、船本体のハード部分と、 その配船先や船上でのソフト部分で構成されているのです。
特に、クルーズ客船は、船主であり投資家であるNYKが中心として主導し、事業展開するですが、セールス活動に加え目的地・配船先や船上でのゲストの滞在環境・舞台環境の構築を担うのです。
その船の基本デザインにおいては、既に対象とされた当時のロイヤル・ バイキング社の船 など想定競合船社が存在していたので、その前例と具体的に相対的検証ができ、その対応は容易でした。
日本人が得意とするモノ作りの技術を積極的に取り入れることにより、費用対効果や利用者の利便性などを考慮しても、方向性の確認にそれほどの議論は無かったようです。
しかし、客船というハードの部分は、当初は珍しく感激を与える事が出来てもゲストも時間が経つにつれて飽きられやすいものでした。
客室をはじめとする船上における各種の公室や施設などは、技術革新を基にした利便性と目新しさなどにありがたみを感じても、1 週間も滞在していれば新鮮さも薄らぎ、その優越性に対する評価も忘れられやすいのです。
また、造船所で図面が書かれた段階で、その技術革新の提案は、他の会社が模倣し追従したりされやすいので、そのハードの持つ利便性や長所だけでは事業継続は限界があります。
クルーズ船客の嗜好やライフスタイルの変化などの進化の度合いによっては、折角の船上の居住環境は数年で陳腐化するのでしたが、これから始めるクルーズ客船事業は、ハードでは成り立たないものです。このプロ ジェクトの成否を決めるのが、船上における滞在環境あるソフトウェア構築が要だと確信したのです。
これは実際に乗船するゲストのドラマであり、ストーリーを演出するための商品なのです。彼らの多くは、旅が持つプロセスを3D化し、ストーリーを演習することに期待しつつ数ヶ月、長ければ数年前からクルーズスケジュールを計画し、旅のプロセスを想像することから始まるのです。
そして船の舞台で主役を演じ、多くのストーリー に出会う旅が出来上がるのです。これからこのラグジュアリー・クルーズの業界で生きていく為には、 船上でゲストが楽しめる環境創りを指す滞在環境こそが、この事業の「命」であると理解することなるのです。
クルーズに魅せられたゲストは、旅の目的地のみならず、 船上での交流など旅のプロセスにより興味を示す人たちが中心です。船上でのライフスタイルを求めてくるゲストに対して、今まで経験した事のないような快適な環境と充実した船上で の日々を演出しなければならないのです。
この新しい客船事業は、ゲストに船上での体験を刻み、旅の思い出を売る仕事であり、アメリカのラグジュアリー・クルーズ業界に参入し成功 するためには、その旅の記憶を脳裏に刻む環境づくりとひるむことのない革新的な発想の導入が必須とされます。その実現のためにはホスピタリティ事業の心臓部である船上での生活体験のの仕掛け作りが最優先の課題です。クルーズ会社は旅の「メモリ ー・クリエイター」なのです。
既存の競合他社より上を行くためには、ゲストに強烈なインパクトと感動を与えるような船上では人との出会いで織り成す感動と、心に思い出を刻む仕掛けが求められるのです。
その演出にはクルーズ会社の個性が求められるのです。船というハードの上に実現されるサービスの中身と船上で生活する人たちが醸し出す生活及び交流環境が、既存のラグジュアリークルーズ客船会社を凌駕するような独自性に溢れた舞台装置であり、それがこの事業の成否を決めるのです。この差別化が実現できれば、当初の目標である新会社のブランドの価値が、認知されるに違いないと思っていたのです。
各種の調査を通して、船上での体験価値を演出する最重要なポイントは、ゲストのライフスタイル分析であり、この狙いを定めた客層の絞込んだ顧客が何を望むかなどニーズの先読みする能力が必要なのです。ゲストが出発の数年先も予見しながらそれを見極め、同時進行として、ゲストは何を嫌がるか等の、ネガ ティブな要因を出きるだけ取り除く商品企画にあると考えていたのです。
クルーズビジネスが浸透していない日本マーケットの中で、クルーズ船上のサービスプロダクト、滞在体験を演出する知識は皆無でした。各種の調査や専門家との交流を通して、この企画・構想の段階かある程度の共通認識は持っていてもその細部にまでその思いが至らなかったのです。この分野に関しては日本を代表する海運事業を行なっているNYKでさえ、それが生かされない未経験の分野がアメリカマーケットを対象とした客船事業だったのです。
クルーズ事業は貨物輸送と違い、目的地に早く到着することが至上と言うものではありません。物言わぬ貨物と異なり、ゲスト一人一人がそれぞれ持っている価値観を持っている以上、限られた空間にゲストを詰め込めば採算が上がるというものではないのです。
クルーズ客船には、効率や詰め込みなどは馴染まないのです。乗船中のゲストは広い生活空間を利用し、クルーズ船客がゆったりと自らのライフスタイ ルを維持しながら満足する演出が極めて重要なのです。
採算向上のために、サービスの中身やそれを演出する備品の手抜きは、何度も乗船するリピーターにとっては、「前回と何かが違う」と言う懐疑心を生み、その結果として彼らは、次回のクルーズは何も言わずに離れて行き、他のクルーズ会社の船に移ってしまうのです。
その客離れの傾向が強まれば、この業界では敗者となり、高額商品であればあるほど、コストパフォーマンスが重要になります。
クリスタル・クルーズ社が船上でのホテル滞在環境と言うノウハウ、ソフトの構築と共に、実証するプロダクトを持ち合わせない創業当時、船上コンテンツに対する構想を就航するまでの2年余りの間、これから誘客活動を展開するアメリカマーケットの旅行代理店網などに対して、期待を持続させる仕掛けが必要があったのです。
旅行代理店網に提示するホテル・コンテンツがない、ゼロから出発する会社としてはマーケットに対して、期待と納得させ続けていったのです。
そこで新しいラグジュアリー・クルーズのコンセプトを作る人材を前面に出す戦略を考え出したのです。マーケットが興味を持っている、新会社の描く船上における体験価値を演出するソフト面の構想を彼らの人材を表に出して、誰がこの舞台創りの演出家であり、登場人物であるかを明確にすることでした。
新会社のコン サルタント・チームなど幹部に対するこの業界における信用度とこれから雇う船上で働く人材を前面に出して、船上のパーフォーマーである乗組員を全面的にアピールし、マーケットや販売網に訴え掛ける方策を考えたのです。
また、船上のプロダクトの構築の過程で、早い段階から将来のクルーズゲストのみならず、共存共栄の不可欠な関係にある旅行代理店など販売網を取り込むことが必要でした。
新造船の建造スケジュールやタイム・ラインに合わせ、彼らの知識や宣伝・プレスなどの積極的な参加を促し、マーケットが、新しいクルーズ客船運航会社の商品企画に積極的に参加する環境を作るという工程を描いていた。
これにより、新プロダクトに対する期待感を更に高め、クルーズゲストにとって快適な環境を、演出する努力を重ねるのです。
ブランド構築の過程でも、船上の滞在環境構築の段階から人材の力を大いに活用することが必要であったのです。共存共栄をシステム化し、それを構築を考えたのです。
船上滞在環境のイメージとは、プロセスを重視するホスピタリティ事業では、常に人が中心でなければならないと思われます。
クリスタル・クルーズ社がこのラグジュアリークラスに特化し、アメリカにおけるクルーズ業界のオピニオンリーダーとして認められるためには、船上での滞在環境を構成する人に旅に参加する歓びを体験してもらうためには、船上でのプログラムが全てでした。
クルーズ旅行に参加した思い出は、ゲストの脳裏に刻まれ、永遠の旅の感動を創るに違いないと考えていたのです。
そのためには従来のラグジュアリークルーズ会社の真似は避けたいのです。船上でのコンテンツを構成する食事やエンターテイメントのみならず、個性に溢れる多国籍乗組員の採用も含め、彼らの持つ多様性や独自性を積極的に露出して、新会社が絞り込んでい るクルーズ客船マーケットに、常に 100%以上の満足を提供できるような仕掛けが必要であった。
今までの各種の事前調査が生かされる時が到来し、狙うべき客層から、彼らのライフスタイルに対する分析は出来ていたのです。
その上で、クルーズ船客が、クルーズ旅行に求めるものは、サービス、コミュニティ、エンターテイメントを含めた食後の環境でした。
新会社の主対象とするラグジュアリークルーズマーケットでは、上記の船内環境に大きな期待を持って乗船してくるのです。
その舞台演出のポイントは以下の通りです。
(a) サービスをされる人たち同士の相性
船上の滞在環境は、クルーズゲストが主役と認識。その前提で乗組員との親密な環境を演出し、ファミリー的雰囲気を創り出すのです。サービスは、クルーズ客船運航会社の仕掛けである程度対応できるにしても、コミュニティ面では、人間性の交流を求めているのです。
新しい仲間との交遊の楽しみや人情の発見や歓楽欲を満たすような食後のロマンチックな環境が重要なのです。これを円滑にするためには、主役であるゲストを支える多様な文化的歴史的な背景を持った多国籍乗組員や他の国から来たクルーズ船客の心地よいハーモニーが日本的な「おもてなし」の領域を越えて、 国民性の違いを通して、驚きと感心そして新しい発見がこの事業に活力を与えると察知したのです。
(b)サービスを提供する人と受ける人との相性
このようなクルーズ客層の中から、客層のライフスタイルに合わせて、最も快適な環境を創り出す。そのためには客層のライフスタイルを理解 し、彼らが日常どのような生活をしているのかを知り、どのようなものに興味を持っているかなどを知ることです。
サービスを提供する側としても、例えば食事のテーブル・ホストとしての役割は、食事の質やサービスに加えて、その場で2時間程度の時間を、彼らが興味を持っているアメリカのTV番組のワイドショーやオペラなどの話題にもついていけて、乗船客ゲストの常識を基にした社会知識と会話力など船内におけるコミュニケーション能力が必要になるのです。サービスを提供する立場としては、船上での社交を通して、彼らが 快適と思う滞在体験の本質を常に見極める必要があります。
(c)多国籍船員を中心としたサービスを提供する人の適性が鍵。
ラグジュア リー・クルーズては長期滞在が基本で、ゲストにとって、滞在中の食事をはじめ、人の出会いや多彩なエンターテイメントなど感動と感性を覚醒する滞在環境を演出する必要があるのです。
多くの選択肢の中なら、彼らが気の向くまま選べるだけの豊富な選択肢があり、ゲストの知的好奇心を満たす商品企画力が求められるのです。既存のラグジュアリー・クルーズ客船社との差別化のために、新しい試みとして、競合他社のプロダクトのみならず陸上のリゾート・ホテルなどのサービスやそのコンセプトも積極的に導入。これは、多彩な食事の面でも考慮されねばならないものなのです。
1:クルーズ旅行の主役であるゲストのライフスタイルを理解する
長期滞在しながら船上生活を楽しむ多くのゲストにとって、そのライフ スタイルを基準にして、快適な人間関係が創られる事が望ましいのです。
確かにお土産などを買うのも旅の楽しみの一つと考えられますが、新会社の想定していたアメリカの客層にとって、究極の旅とは旅のプロセスを大事にして体験を心に刻むことです。
特にご夫婦で参加される場合、共に歩んだ人生の足跡を同期化することで喜びや失敗も共有できるものです。
ラグジュアリークルーズのゲストは、船上での滞在生活の中に人生の物語を求めており、その物語の中に旅の思い出を心に刻みたいと思っているのです。
記憶に人生の価値や感動を刻む仕掛けが、 至上の要請であると考えてます。その実現のためには、ゲストの船上におけるライフスタイルに最大限に 配慮し、乗客の世界を知らずして、心配りはできないものです。
クルーズ旅行の主人公としてゲストが存在するという舞台演出することが必要なのです。
彼らが持つライフスタイルや生活・文化と船上で提供する舞台装置の融合する「仕掛け」が 成功の可否が決まるのです。
ゲストとクルーが、密接に交流して創られる環境。
サービス対象 が人である以上、船上での人間関係の多くは人的要因で左右される傾向が強いものです。
相性がよければ訴求力もあり、永続性が高いのです。しかし同業他社よりも優位に立つためには、この人的要因にフォーカスし、新規参入のクルーズ会社が客層を絞り込んだアメリカ人ゲストのライフスタイルを理解し、客船で働く乗組員との相性との結びつきを強化することでした。
クルーズゲストとの関係においては、人間関係を基本としたサービスがホスピタリティサービスの基本と言われてます。それは、双方の信頼関係や相性で成り立つものです。
クルーズのゲストは、自らの支払うクルーズ料金に対して、クルーズ会社との相性と相応のサービスの提供に期待を込めているのです。
コミュニティについてみると、船上における人と人の織り成す人的な要因とは相性、しかもお互いのライフスタイルが理解できる客層が、滞在経験価値の中核を成すものです。この事業を長く続けるためには、ソーシャルの分野で他社と大きな違いや特徴を創造したのです。
この充実度が、将来の戦略の核となる、他社との差別化で決定的な差になると考えた。船上におけるコンテンツのみならず、営業の面における販売網における戦略なとも連動させる必要があったので、下記のようなシナリオを描いてみたのです。
ゲストが求める価値観と出会いを創る環境
乗船客は、常に「ストーリー」に価値を求めているのです。ラグジュアリークルーズ業界のターゲットとする客層はモノの所有よりも、 船上における人との出会いや滞在中の体験などを心に刻むことにより価値や感動を求める人たちなのです。船上での「人との出会い」の出会いを、より感動深いものと感じてもらう仕組み作りです。 その場を作るためには、食事の後の充実したロマンスやエンターテイメント、そして食後酒も必要になります。
クルーズ旅行のリピーターは、極めて主観的な旅行経験や体験、新しい発見や 感動”に加え、 自らがどのような扱いを受けたかなどで、クルーズ旅行の価値を考える傾向があります。例えば、あの従業員の態度が悪いとか、テーブルに着いてから食事の時間までが長いか短いか。隣の旅行者の食事の量は自分のものと比べどうか。ウエイターのサービスは自分に対して差別的でないかとか、そ れぞれの能力とは別の所で評価されうる事もあるのです。
どれもかなり主観的旅行経験であるが、彼らはこのような主観で旅行自体の満足度を評価するのです。ゲストの旅のストーリーの充足度に価値を求めているのです。
この事業は、主としてアメリカ人クルーズ船客を対象とした彼らの「文化」を取り込む事業なので、まず何としてもアメリカ人マーケットから受け入れられる仕掛けが必要でした。これを理解していれば、クルーとの相性の織り成す親密さが創れるのです。自分の身の回りでサービスをする乗組員や毎日食事の際に、テープル・ホストとして 2 時間余も会話をこなす幹部社員の役割は極めて重要である。100%のサービスでゲストに 受け入れられて、120%で初めて高い評価を得る関係でもある。
ゲストとの相性と忠誠心
クルーズ旅行は、船上での「体験価値」が重要な要素となっており、当然クルーズ会社としては、ゲストが主役の感動のドラマをどのように演出するかストーリーを構築しなくてはならないのです。その多くの分野では、主役であるゲストと脇役となる多国籍乗組員との相性で決まると言っても過言ではありません。
ゲストの期待が高ければ高いほどやりがいは大きいのです。この相性の濃さこそが、 ラグジュアリー・プロダクトの世界では最重要である、とアメリカのビジネスコンサルタントが各ラグジュアリークルーズ客船会社から指摘を受けているようです。
ここで他社と差別化し、同業他社と異なるケミストリーを構築する必要性を悟っていた。そして他の既存ラグジュアリ ー・クルーズ客船会社のプロダクトとの差異化も図りつつも、ゲストと乗組員の間での 感情面でのつながりを強化するのです。
ここの評価が定着すれば、新会社の顧客層に新会社のプランドが 認知され、会社に対する忠誠心も強化されるに違いないとの判断されるのです。
一方、ゲストが船上において人間関係の織りなす相性がうまくいっているときは良いのですが、些細なことでも思い出の心に傷付き、非常に厄介な問題に発展していく場合もあり得るマイナスの要素も潜んでいることも重要であった。プラスだけでなく、そのマイナスの部分に無関心であると、折角の乗船客を顧客離れになりかねないのです。
ラグジュアリー・クルーズ旅行では、年に数回も乗船するような多くのリピーターで支えられている旅行商品なのです。このリビーターの多さは、ゲストの満足度や感動度の高さと比例しているのです。
統計的にこの理由を掘り下げていくと、船上での生活体験とそこで織り成すゲストとクルーとの相性にたどり着くのです。従業員にとって、 クルーズ客船での勤務は、職業と居住が一緒となる逃げ場がない場所です。また年に二度 三度と同じクルーズ客船に乗ると前回と同じ顔ぶれの乗組員が、「お帰りなさい」と 言いながら出迎え、家族の一員のように、親しみを持って旅行の手助けをしてくれるところもクル ーズ客船による旅行の最大の特徴のひとつです。
クルーとリピーターとの多くの交流が、クルーズ会社の「一族」としての強い絆になるのです。クルーズ客船の乗組員は、同じ船の家族の一員であると同時に、旅行をより快適にするための添乗員の役割も果たしてい ると言えます。ゲストとクルーとの出会いが新しい滞在価値を呼び覚ますのです。
多国籍クルーとゲストが同じ釜の飯を食う
旅行代理店等の販売網との調査分析を通して、主要ゲストのライフスタイルを前面に出し、乗組員の交流や接触の機会を高め、深める仕掛けが必要であるとの判断をしたのです。
ホスピタリティ産業を構成する要素の中で最も重要なものは、人との相性により構成される想像力とそれを行動に移す実行力なのです。
そこには、クルーズ客船運航会社の種々のノウハウが凝集さ れるわけで、仕掛けで模倣は出来ても、「心」まではそう簡単には真似されません。新会社のブラン ド構築とそれを定着させるその「心」の仕掛けとブランドの持つ価値を最大限に高める環境作りが極めて重要でした。この舞台づくりには、それを構成するサービスする側の人材の発掘と採用、多国籍人材の国民性や多様性を充分発揮させ、クルーズ船客との相性を醸し出し、この会社独特のゲストとクルーのケミストリーを作り出すことを最優先にしたのです。幸い、クリスタル・クルーズ社では便宜置籍の導入を決めていたので今後造成する商品企画の成功の可否を握る大きな柱となったのです。
新規クルーズ客船事業は、今まで経験のないような「滞在型のリゾート」のコンセプトを基本としたクルーズ客船運航会社を創造すると謳っているのです。この実現のために、サービスコンセプトの基本に、有能な多国籍乗組員の採用と運用でゲストを満足させる船上での体験環境を考え出したのです。
サービスに関しては、ゲストにとってコストパフォーマンスが評価しやすい環境、 ゲストのニーズに合わせたサービスの提供により満足度や感動を高め、その結果リピーター率の向上と彼らを通しての「ロコミ」客などの新規客の誘客層の拡大など、将来の万全の態勢に備えていたのです。
その長期滞在の場を提供するクルーズ客船事業を舞台裏で支えるのは、多国籍 乗組員が持つその多様性と感受性の豊かな人材力に賭けることにしたのです。感動は期せぬ出 来事などが生み出すものです。そして失敗が成功へのヒントになるのは、この予期せぬ出来事のお陰である。
考え方も多様であればその対応も異なるものです。日本でよく話題になるマニュアルでの格式的な対応は、多くは問題の処理に目が行きがちで、多様な人種や文化的背景で育ってきたアメリカ人ゲストの相手により異論を生みやすい。感動には現場での問題の処理よりも解決が重視されなければならないのです。陸上のホテルの労働環境と異なり、クルーズゲストと同じ生活環境を共有する船上では、ホテル部門の乗組員の個性や国民性をゲストに露出することによって事業が成り立っています。
船上における滞在環境も含めて、従業員の満足度の高い労働環境と忠誠心があればリピーターの多くは、彼らの仲間になり満足度も刺激し彼らも ファミリーの一員になるのです。ファミリーになれば、阿吽の呼吸が機能するのです。船上の従業員は、新会社のクルーズ商品の船上における旅行商品の伝道者であり、セールスマンでもあります。日本で言うなら「同じ釜の飯を食う」という表現が適切かも知れません。
サービスを提供する多国籍クルーによるダイバーシティ
アメリカの旅行経験の豊富なクルーズゲストに、今まで経験のないような充実した船上での滞在経験を提供するには、世界の人的マーケットから、最善の適材適所の人材を調達する事が不可欠でした。
適材適所の多国籍乗組員の採用が可能であれば、最適な乗組員と乗船客の比率を構築でき、新事業に成功の鍵となります。そしてクルーズ業界で採用されている便宜置籍船としての有利さを十分に発揮する必要があるのです。
便宜置籍船としての最大のメリットを活用することで多様な人材のリクルートを容易にすると考えていたので、船籍はバハマである事が重要でした。
良質なサービスの提供を、多国籍乗組員の採用により、その国民性を背景とした個性に溢れたダイバーシティを最大限に発揮できるサービス環境と主役であるゲストに充分に心配りが出来るような船上でのホテル組織を構築する際、アメリカ人ゲストを念頭に、例えばサービス部門で言うと、メインダイニングでのクルーの配置一つとっても最も適した国民性は何処か、クルーズ客船の台所であるギャレーのマネージメントは、どこの出身者に任せるか。部屋周りのスチュワーデスなどはなぜ北欧系の女性が好まれるのかなどを、精査の上、乗組員の国民性などを中心とした混成チームを考えた経緯があったのです。
クルーズ事業において、船上で働くサービスを提供する人は、彼らの生活やコミュニケーション能力はもとより、 サービスをする側の感性や行動に対する予見力が重要になります。 エンターテイメントの世界で言えば、映画の俳優のような、切り貼りが出来、一方通行の役では務まらない。彼らが職業と住居を共にするので、ゲストの反応を冷静に読み取り、その場で柔軟に対応しながら、臨機応変さに裏づけされた、船上生活と言う舞台周りを創り出す「パフォーミング・アーティスト」でなければならないのでした。
ラグジュアリークルーズ船上の生活環境は、例えていうとコンサートでアーティストが、観衆を前にしながら、感謝の心とともに、最高のパフォ ーマンスを見せる舞台と同じ考えです。そこでクルーズ会社としては、常に優秀な乗組員を確保する事が、サービスの向上のためには必須の要件になるのです。
ゲストに対する計らいのみならず、同時進行してクルーが毎日快適に生活できる環境作りも重要です。自分が運航会社からリスペクトされたていると認識している従業員は、多数のゲストにより多くの感動を与える事を知っていたのです。
このようにクリスタル・クルーズ社は船上サービスの「命」である優秀な人材確保は、ゲストにとっても最善の配置を望まれ、国籍的な適材適所主義とし、世界の人材マーケットから採用したのです。多国籍船員の背景にある国民性の特性を最大限に生かすのです。
当時は欧州系クルーが多く存在し、国籍のそれぞれの国民性の持つ個性や特性を残しつつ、クリスタル・クルーズのサービスミッションを均一化することをを目指す戦略を描いたのです。(これは後の「クリスタル・ベーシック」というサービスマニュアルとして一貫されました。)
多国籍混成の人材を確保する
船上でのサービスの基本をなすスタッフの構成に関しては、適材適所を旨として 白紙に絵を描く作業から始まりました。
旅行代理店、他のラグジュアリー・クルーズ客船 に乗るクルーズ船客等との接触で新会社にとっての相性を考えたのです。多国籍乗組員間の相性のみならず、ゲストとの相性、すなわちマーケッ トに聞くという基本姿勢を貫いたのです。
船上ホテルにおける、サービス・システムに関しては、アメリカ人ゲストが高く評価する欧州スタイル採用を決めていたのです。具体的にはノルウェーシステムとオーストリアシステムの良いところを併用し、後に「クリスタル・スタンダード」として新会社を構築することになったのです。
適材適所の人材を世界各地から集めるといっても、闇雲に手当たり次第とはならないのです。クルーの国民性や生活環境、個性、経験などが複雑に絡み合って、アメリカ人ゲストに、快適なケミストリーを発信する必要があるのです。 クルーズ船の乗組員の構成は、アメリカマーケットの意見を聞くこととしたのです。
世界でも最上級を狙う以上、ヘッドハントも含めそれを実現できる人材を確保することを基本方針としてこれから採用戦略を練る必要もあったのです。
アメリカ人が見る国民性やイメージを一例にすると以下の通りです。
・イタリア人は人との交流を得意とする
・ドイツ人 = 几帳面さが売りもの
・ノルウェー = 清潔感あふれている
以上の点を十分に配慮して決定したのです。
クルーズプロジェクトが、具体化する過程で、多くのクルーズ客船の乗組員構成などに関して、現状とそれに対するクルーズ船客側・旅行代理店などの集客組織側の意見を集めていたが、 それらのデータなどを元に、基本的なクルーミックス(従業員構成)の基本構成を描くこととなった。
本船運航部門
マーケットを席巻している仮想競争船社としての ロイヤル・バイ キング社や NAC 社が念頭に有り、北欧系の船長を含め、日本郵船の優秀な乗組員も乗せ、幹部船員 については、ノルウェー船長他、ノルウェー・日本人の混乗とすることとしたのです。つまりノルウェー人クルーは接待要員としての船長。運航の実務はNYKの副船長が握るとの発想で始まったのです。
船上におけるホテル部門については、ヨーロッパ系ホテル従業員の起用を次のように考えたのです。
・ ホテル、ダイニング従業員:ヨーロッパ系
・ スチュワーデス:北欧
・ ダイニングのギャレー:オーストリア人シェフ
・エンターテイメント部門トップ:上品な英語国出身者
このようにクルーの国民性を考慮して配属を決定していたのです。
ゲストとクルーの乗船比率
長期滞在の場を提供するクルーズ客船事業は,滞在型のリゾートのコンセプト が基本になっているのです。クルーズ船客層を絞り込んだライフスタイルを基準にしたゲストに合わせて最も快適な環境をづくりを考えると、今までの調査などで、適材適所の国民性以外に、サービスする乗組員の人数の試算も重要になります。これは、サービスに加え、コストや乗組員の居住空間にも影響を与えることになるのです。
主役であるクルーズ船客に充分に心配りが出来るような、船上でのホテル組織とクルーズ船客の比率も重要な指標になる。その船上における、クルーズ船客と乗組員比率を、2対1 と、ラグジュアリー・クルーズの中では最大級のレベルを目指すこととしたのです。これは新造船の従業員は乗組員の部屋の数にも影響を与えたのです。
日常的滞在環境
クルーズ旅行において、常に主役は乗船客です。クルーズ客船は、船長や乗組員だけのものではないのです。クルーズ客船は、寄港地での観光以外に、船上でのライフスタイルの体験環境の舞台裏の演出が大事です。
その舞台裏とは、主役であるゲストの客層の共通の文化的・ 社会的背景、すなわちライフスタイルが、常に反映されたものでなければならない。クルーズのような滞在型の旅行には非日常的環境は無理があり、長続きしないし、堅苦しく 飽きかやすいのです。気楽さがより重要です。
クルーズ客船会社がセグメントしている客層で、船上での多数を占めるクルーズ船客の国籍や文化的共通性をベ ースにしたものになる。したがって、旅行商品をつくる立場のクルーズ会社としては、ターゲットとなる客層のライフスタイルを充分理解した上で、構想を練る必要があったのです。
ラグジュアリー・クルーズ・マーケットに於けるクルーズ旅行商品の革新には、クルーズ客船会社に、ゲストを合わせるのではなく、運航会社がライフスタイルの時代の先取りを提案する先見力が求められるのです。
アメリカ人ゲストを客層とするクルーズ会社から見ると、彼らにとっては、船上での生活は、英語が通じて、食事もエンターテイメントもアメリカでの生活そのものであり、まさに日常の状況を海上と海外にまで延長したに過ぎないのです。
クルーズ旅行を通じてアメリカでの日常生活をそのまま外国に延長し、その上で、新しい国々・異国を訪ね、深夜までの食事やエンターティメントを楽しんでもその間船は移動し、翌朝は新しい観光地に着いていることなどが、クルーズ旅行の醍醐味であると考えます。クルーズ会社の役割は、アメリカにおける日常性を前提に舞台回りを設営し、寄港地に着いたら海外、船に戻ればアメリカ。これの舞台演出を創造していくのです。
アメリカ人旅行者を対象としたクルーズ客船が、アメリカ的雰囲気に溢れているのは、これらの要素を運航会社が理解した上で舞台づくりを仕掛けているからです。
そして滞在型休暇の宿命として、船上で大多数を占めるゲストの国民性や文化性が前面に出た旅行商品であるとの現実を無視し、クルーズ客船運航会社が自らの主観的経営哲学だけで事業を始めてもなかなかうまく行かない場合が多いのです。
ゲストは、1 人 1 人が異なった価値観に基づき旅行を楽しんでいるが、クルーズ客船会社としては出来るだけ最大公約数的基準を設定し、潜在的船客需要が何処にあるのか十分事前に調査する必要があるのです。
寄港地・行き先・船上での乗組員の構成やサービス方法、食事、船内イベントなどを考えながら、船自体の建て構え・雰囲気を備えた舞台づくりを心掛けているのです。クルーズはこのような多数を占める国籍の旅行者・クルーズ船客を主役としたショ ービジネスであると言っても過言ではありません。まさに洋上に浮かぶラスベガスと言った方が適切かも知れません。
乗船客と乗組員との相性が全て
クルーズ客船は、クルーズ旅行者のライフスタイルの延長線上に存在することは前記しました。しかし、各社がターゲットとするゲストの客層によって滞在環境は全く異なってくるのです。
陸上のゴルフクラブや社交クラブの場合、その入会金として入会料を徴収することで会員などのセレクションが可能化tと思われます。しかしクルーズ客船 はそのような「会員制」方法は取れないのです。船上のライフスタイルが例えゴルフのカントリークラブのような雰囲気であっても、それは閉ざされた会員だけのものではない。すべてがアメリカの消費者マーケッ トに対してオープンなので以下の通りの検証を行なったのです。
上記の様なライフスタイルを持ち、同じような価値観を持つクルーズゲストにとっては、船客同士の居心地がよく、お互いの社交や 交流も活発になる。これが、クルーズ客船社の滞在環境に良い意味の刺激を与えるのです。
プリンセス・クルーズ社の「アイランド・プリンセス号」を舞台とし、その船上での出来事をテレビドラマ化した「ラブ・ ボート」は、船上で起こる人と人の出会いのをロマンチックに描きアメリカで長期間の人気番組でした。
このようなテレビ番組を通じて、主役であるゲストにとって心地よい交流はまさにヒューマン・ ビジネスと位置づける事ができるのです。
全く異なった価値観を持った乗船客が、異なったコンセプトをもとにでき上がったクルーズ客船に乗ると不快な事も多く、滞在型の休暇を台無しにしてしまいがちです。どのクルーズ客船に乗船するかは、その旅行の楽しみ方にも影響を与えるのです。
理由は、一旦船に乗ってしまえば、船の雰囲気が違うといって、下船するわけにはいかないし、予定の変更も効かないのです。それゆえ、このゲストとクルーズ客船会社のミスマッチを避けなければならないのです。
ラグジュアリー・クルーズ客船会社としては、販売網の中核をなす旅行代理店などに、自らセグメントしたゲストは、クルーズに対してどのようなイメージを抱いているのか、そして滞在中の生活環境は、他のラグジュアリークルーズ客船会社に比べて何が違うのかなど、営業面や運航面における特徴を前面に出し、試乗など乗船活動を活発化させ、その違いを具体的に知って貰う必要があるのです。
クルーズ旅行経験者都旅行代理店等を味方につけ、彼らの顧客と新会社のクル ーズ旅行商品との相性を知ってもらい、適切なシステムを構築するのです。
こうしてラグジュアリークルーズの黄金律とはゲストとクルーが織りなす相性が命という結論に至ったのです。
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