クルーズ事業は乗客の価値観と販売網の評価で、クルーズ運航会社に対する評価が決まるというこです。旅行商品を造成する側からは、どのような点に注目をしているのかを、客観的に見る必要がありました。
この事業の現場になる業界や乗船客の事情を理解することでした。
アメリカのクルーズ市場概要
これから企画するクルーズ客船事業の業界の現状、 市場分析と規模、アメリカにおけるクルーズ・ マーケットの概要の把握と既存のクルーズ会社を分析が必要でした。
その結果、以下のようなことが解ってきたのです。
当時のアメリカの 3 日以上の船旅をするクルーズ客マーケットは、2018年には 1,400 万人で、1泊あたり食事代込みで300 ドル前後の客層を主力とするラグジュアリー、200 ドル前後を中心とするプレミアム、 100 ドル前後の大衆路線を中心とするカジュアルクルーズに特化しつつありました。
特に、プレミアムやカジュアルコンテンポラリーマーケットでは、クルーズ客の 大半はマイアミやプエルトリコなどを基点としたカリブ海などのクルーズを中心として長くて 1 週間というスタイルです。
一方、5%を占める約 70 万人は、これらとは明らかに異なる客層であった。いわゆるラグジュアリーといわれる長期間、しかも年に数回も船旅を楽しむリピーターでした。
多くリピーター は、世界周遊型のクルーズ愛好者であり、1 度のクルーズ旅行に2週間かける人を中心に、長いものになると 100 日間もの間、船旅をするという人々で成り立っていたのです。
その結果、客層、特にラグジュアリークルーズの客層において、次のようなイメージが浮かんできたのです。
1. クルーズ船客のプロファイルとしては年収 6 万ドル、平均年齢 60歳前後、ラグジュアリー・クルーズに はリピーターが大きな比率を占めユダヤ系船客が多い。
2. 富裕層は、多彩な観光地を望んでいる。
3. クルーズは 寄港地・訪問目的地と船上での滞在体験のミックス。旅のプロセスを大事にすることが楽しめる旅である。
すなわち、観光地への移動手段とその地における観光に加え、移動期間中の船内で 世界各国からの多様な人たちと一緒に織り成す滞在型生活体験 を併せ持つ旅の形である。
このように、船上での滞在リゾート施設は、多様な生活空間を生み、 人それぞれのライフスタイルに合わせた喜怒哀楽を刻んでいくのです。
従って、 デスティネーションのみならず、船上における滞在時の生活体験環境が重要であり、その価値をどれだけ高めることができるかが、クルーズ会社としての企画力であり、サービスの基本と考えます。
富裕層を対象 とするクルーズ事業で成功するためには「生活体験価値を高めること」 にあることが必須条件。
船上生活におけるライフスタイルは、ごく普通のアメリカ的な日常性が重要であることに確信を持ったのです。
4.クルーズ会社間での「差別化」が明確であること、旅行会社や顧客は、自分のニーズに合わせてクルーズ客船社やクルーズ客船を選ぶ傾向があるのです。
5. 新造船が出来れば、後続船に真似され数年で陳腐化するが、人材が織り成すソフトは真似されづらいのです。
6.他の旅行も経験したうえで、初めてクルーズを試乗するケースが多いが、これは他の旅行でのパッケージ的なツアーを嫌う傾向があり、新しい旅の形をクルーズに求めているのです。
7. クルーズ試乗のきっかけは家族友人の紹介もあるが、クルーズ会社の宣伝や旅行会社からの紹介も大きいものです。
特にクルーズ知識の豊富な旅行会社などの薦めで船を決める傾向が強いのです。
クルーズ事業は、クルーズ会社と旅行会社との顧客の囲い込み、維持、拡大が大きな成長の鍵となっているのです。
そのためには、クルーズ会社としてはその核となる客層のライフ・ スタイル・嗜好の先取りをする「先見力」が重要です。
8. 初めての乗客は、旅行会社を頼りにしている。
アメリカにおける顧客の囲い込みは自社集客ではなく、強力な販売網である旅行会社のネット ワークを味方につけるのです。
このシステムの構築とは、マーケットを押さえる主要旅行代理店との密接な関係構築が必須条件です。
また、1 度乗船した船客は、自らの経験で次も同じ船に乗るかどうかを決めるし、満足度の高い完璧な休暇であれば、友 人や家族に、この会社を勧めるようになるのです。
9. 初歩的な調査によると、一般的に、クルーズを経験した旅行者のクルーズの評価としては「思ったよりも安くかつ満足度も高い」というものでした。
コストパフォーマンスが良く、船上での楽しみも充実しています。
10. また、CLIA の統計によって、彼らがなぜリピーターになるのか分析したところ、約 50%の船客 がスタッフの親切さとサービス、船客に対する配慮と述べていました。
初めてのクルーズ旅行者は 19% が以前に経験した陸上の旅行よりクルーズ旅行の方が充実していると言います。
特に 13%が部屋・食事・ ショーなど船上体験がよかったそうです。
11. クルーズ会社は旅行会社や顧客のネットワークによる人脈でつながっているのです。したがって、新規参入会社にはこの人脈とつながる人材の確保が必須条件になります。
12. ラグジュアリークルーズの船客は、アメリカの株式市場に影響を受けやすく、乗客は株など投資利益を利用してクルーズを楽しむ傾向があります。
13. ラグジュアリークルーズでは、船上ではファーストフードやお仕着せ料理の定食は避ける、 乗客の好みに任せるメニューが必要。
食事はクルーズの楽しみの重要な要素です。
14. ラグジュアリークルーズのリピーターは、「1 年に 3 回以上もクルーズをする」 が 47%と圧倒的な数字でした。
彼らは同じ船・スタッフと異なった寄港地を求めてクルーズを楽しんでいる人 たちでもあった。
15. クルーズ旅行で何が重要かと聞いた統計では
(a)寄港地
(b)船上で過ごす時間の多彩で充実な環境
(c) 乗組員との相性
以上がクルーズにとって重要な決め手です。
各種の市場調査の結果導き出した結論は、クルーズ事業に とって重要なのは、船上 における「体験価値」、そして船を舞台にした人が織り成す相性 であるということでした。
富裕層の求める価値ある感動とは
ラグジュアリー・クルーズ船客の求めるものは日常性。
ラグジュアリー・マーケッ トに対する業界筋の見方は、乗客のライフスタイルが活動的になり、いままで以上にラスベガスのテーマ・ パーク的な要素が求められるというものであった。 彼らのリポートによると、ラグジュアリー・クルーズ・マーケットは以下のような姿でした。
- 船室的な「キャビン」からラグジュアリー ホテルのスイートルーム。
- 3度の食事ではより種類が豊富なメニューが求められます。
- カジノやラウンジなど船上における活動の選択肢が大事。
- 船上でのエクササイズ指向が高まる。
- 船上リクレーショナル施設の充実。
- 多様なエンターティンメント。
- ラグジュアリークルーズの評価の基本として、船客あたりの船上スペースと乗客と乗組員の比率がきわめて重要な要素になる。
一般的にラグジュアリーとは何か。
この答えはかなり個人的な価値観や、主観的な感覚、経験体験が影響を与える。
ハッキリしていたのは、 富裕層の多くは、陸上のライフスタイルの延長線で自分の好きな時に好きな事が出来る「わがままな時間と選択肢」を求めている傾向があります。
日本では、クルーズ旅行は、「非日常性」の体験と宣伝されていた が、少なくとも、アメリカの富裕層は、これとは全く反対の「日常性」が最も大切であるという事であったのです。
アメリカ人は、自分たちの日常生活の環境(言葉・食事・ライフ・スタイル)をそ のまま船に乗せて、寄港地と言う彼らの「好奇心」を刺激する仕掛けに、この旅行 の価値を求めている との確信を得ました。
アメリカの乗船客は、自国のライフ・スタイルをそのまま持続しながら、異国の観光地での旅を楽しむ事で、クルーズ旅行の醍醐味を楽しんでいたのです。
人が持つストーリーに、船上で織り成す多くの交流を通して、色をつけることを願っているのです。
船上においての行動をみれば、自分が自分の都合に合わせ、自由に選べる多くの 選択肢も必要と言うものです。
新しい形のクルーズは、従来から描きがちな暇な船上生活ではなく、高齢であってもそれ なりに活動を求め、美しく年齢を重ねること、そして好奇心を 刺激することを望んでいるのです。
旅行期間中といえども次に訪れる国・都市の歴史が知りたい、絵画を見てみたい、ダンスを習いたい、料理を習いたいなどといった船旅の期間を積極的に自らの生活あるいはライフ・スタイル のリセットにしようとするクルーズ客が多いことも判明。
このような好奇心や探究心でさらな るクオリティの高い人生を求めていることがよく理解できました。
いまや、これらアメリカの富裕層の言うラグジュアリーとは、経験価値の高いものであるということです。
彼らには、モノを持つ喜びよりも、クルーズ客船で船上での出会いとか、経験を心に刻む事により価値を置いているのです。
従来型のクルーズ客船には配慮が少なかったが、このあたりのライフスタ イルにもとづいた船上での体験価値を演出することを積極的に取り込むことが出来れば、新規参画社でもラグジュアリー・ マーケットでトレンド・セッターにもなれるのです。
船上での経験価値を究めていくと、クルーズとは、日本で宣伝されるような非日常性ではなく、逆に日常性が重要なのです。
非日常性の持つ固苦しさは、滞在型の旅行では持続しないのです。
多くのアメリカ人は、自国での生活スタイルを変えずに海外旅行するというところをクルーズを通じて発見していたのです。
海外旅行するのに自国での生活をそのまま、維持しながら旅行できる事に、クルーズ旅行の良さを見出していたのです。
これらの旅行者の新しいニーズに合わせるため、サービスを提供するクルーズ運航会社は、寄港地という旅行先と船と言うリゾート環境での生活に、開放感やサービスを受ける快感と選択肢が多くて好きなときに好きなことが出来る滞在環境など宣伝文句を加え、新しい旅行マーケットを開拓します。
この時間をどのように刺激するかがポイントです。
空路や陸路を中心とした空港・ホテル・レストラン・移動のための時間待ち時間のロスタイムや異国における言葉の違いから来る意思疎通の難しさが関わってきます。
一例として、パリの高級 レストランに行っても、フランス語メニューでは、食べ物が出てくるまで自分が何を注文したか判らない等の煩わしさをクルーズでは出来るだけ解消しようとしていた。
このような極め細やかなシステム構築が、当時の旅行者にとって、陸上の旅行などよりも圧倒的な支持を得たのです。
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