クルーズの究極の在り方

ベニスに入港する「クリスタル・セレニティ」

理想的かつ究極の船上滞在環境のを求め、プロセスを重視するホスピタリティ事業では、旅行者との接点は、常に「ヒト」が中心でなければ成立しません。

クリスタルクルーズ社がラグジュアリークルーズ客船の業界で認められるためには、船上での滞在環境を構成する「ヒト」にフォーカスし、クルーズに乗船する歓びを体験してもらうためには「船上での商品開発」が決め手です。

クルーズ旅行に参加した思い出は、旅行者の脳裏に刻まれ、永遠の旅の感動を創ると思われます。そのためには従来のラグジュアリー・クルーズ客船会社の真似は避けたいと思われていました。

船上でのコンテンツを構成する食事や娯楽のみならず、個性に溢れる多国籍クルーの採用も含め、彼らの持つ多様性や独自性を積極的に露出して、新会社が絞り込んでいるクルーズ客船マーケットに、常に100%以上の満足を提供できるような仕掛けが必要であったのです。

長期間に渡る各種の事前調査が生かされ、クリスタルクルーズ社が狙うべき客層から、顧客のライフスタイルに対する分析は出来ていたのです。

それを前提でクルーズ乗船客が、クルーズ旅行に求めるものは、 Ship(船)・Service(サー ビス)・Social(ソーシャル = 社交)に加えてRomance(エンターテイメントを含めた食後の環境)であることです。

クリスタルクルーズ社の主対象とするラグジュアリークルーズマーケットでは、彼らのライフスタイルが所以となる船上での「サービス」と「出会い」に非常に大きな期待を持って乗船してくる人たちなのです。

ゲストの船上における体験価値の評価においては、この「サービス」と「出会い」が、非常に大きな影響を与え、この 2 つの分野でその舞台の仕掛けを考える必要があったのです。

その舞台では、船上で共に滞在を楽しむ「ヒト」とクルーズ乗船客とサービスを提供する側に居るクルーが、密接に交流して創られる環境でもあります。

対象が「ヒト」である以上、船上での舞台装置には、船上での人間関係がサービスをされる人たち同士のケミストリーとサービスをする人とされる人の相性、そして多国籍船員を中心としたサービスをする人たちの適性などの密度が豊かな「船上滞在体験」向上の要であると理解していたのです。

(1) クルーズ旅行の主役は「クルーズ船客」 :顧客のライフスタイルを知ること

長期滞留しながら船上生活を楽しむ多くのクルーズ乗船客にとって、その「ライフスタイル」と言う基準を通して、快適な人間関係が創られる事が望ましいのです。

確かに、 モノを買うのも旅の楽しみの一つであろうが、クリスタルクルーズ社の想定していたアメリカの客層にとって、究極の旅とは「旅の過程を大事にし、その体験を心に刻むこと」であると考えたのです。特に、彼らは夫婦の 場合、その体験を通して、 人生の足跡を「同期化」することにより、夫婦の喜びや失敗も共有できるのです。

ラグジュアリークルーズの乗船客は、船上での滞在生活の中に、人生の「物語」を求めているのです。 思い出を心に刻みたいと思っているのです。記憶に自分自身の人生の価値や感動を刻む仕掛けが、 クルーズ乗船客から与えられた至上の要請でなのです。

その実現のためには、彼らの船上におけるライフ・スタイルに最大限に配慮、言い換えると「乗客の世界を知らずして、心配りはできない」ということ理解をし、クルーズ旅行の中心に 「クルーズ乗船客がいる」という、船上での“舞台”を演出することが必要でした。

船上で彼らが持つライフスタイルや生活や文化と船上で提供する舞台装置の融合する仕掛けが成功の可否を決定するのです。

「サービス」という船上のプロダクトの評価は、多くは「人的要因」で左右される傾向が強いのです。 相性がよければ、訴求力もあり永続性が高いのです。したがって同業他社よりも優位に立つためには、この 「人的要因」に的を絞り、 アメリカ人乗船客のライフスタイルを理解してクルーズ船客 と船で働くクルーとの相性を強化することでした。

クルーズ乗船客との関係においては、人間関係を基本としたサービスを提供すること、それがホスピタリティサービスの基本です。

これがゲストとクルー双方の 信頼関係や相性で成り立つものです。クルーズ船客は、自らの支払うクルーズ料金に対して、クルーズ会社からのこのケミストリーとそれ相応のサービスの提供に「期待」を込めているのである。

「ソーシャル(社交・人的交流)」についてみると、船上における「ヒトとヒトの織り成す人的な要因つまりケミストリーです。それもお互いのライフスタイルが理解できる客層同士が、その宿泊・滞在経験価 値の核をなすのです。

従って、新会社として、この事業を長く続けるためには、先ず 「ソーシャル」の分 野で他社と大きな違い・特徴を生み出そうと考えていたのです。この充実度が、将来の戦略の核となり、他社 との差別化で決定的な差となると思えたのです。

それは、船上におけ るコンテンツのみならず、営業の面における販売網における戦略なとも連動させる必要があったのです。 この確信を元に「ソーシャル」の面から、船上の滞在環境を考える際に、下記のようなシナリオ を描いてみました。

船上の滞在環境は、クルーズ乗船客が主役で自分がすべての中心にいると認識させる滞在環境を演出します。その上で、 従業員(乗組員)との親密な環境を演出し、「ファミリー(後のクリスタ ル・ファミリー)」的雰囲気を創り出すのです。

「サービス」は、クルーズ客船運航会社の仕掛けである程度対応できるにしても、「ソーシャル」は、そこにいる乗船客同士間の交流です。

新しい仲間との交遊の楽しみや人情の発見や歓楽 欲を満たすような食後のロマンチックな環境が重要なのです。

これを円滑にするためには、主役であるクルーズ乗船客を支える多様な文化的歴史的な背景を持った多国籍クルーやアメリカ以外の第三国から訪れたクルーズ乗船客の心地よいハーモニーが必要なのです。日本的で同質的な「おもてなし」を越え、国民性の違いを通して、「感動」や「感心」そして「新しい発見」などがこの事業に活力を与えると明らかになったのです。

このようなクルーズ客層の中から、彼らのライフ・スタイルに合わせて、最も快適な環境を創り出すのです。その環境を創るということは、これらの人たち の乗船客のライフスタイルを理解し、彼らが日常どのような生活をしているのかを知り、どのようなものに興味を持っているかなどを知ることの理解に努めることです。

サービスを提供する側としても、例えば食事のテーブルホストとしての役割は、食事の質やサービスに加えて、そのダイニングテーブルで 2 時間余を、彼らが興味を持っている朝のワイドショーや テレビ番組やソープ・オペラなどの話題にも積極的に参加できるような、ある程度の「彼らの中の常識」を基にした常識と会話力が必要です。

サ ービスを提供する立場としては、船上での社交を通して、彼らが 快適と思う「滞在体験」と「相性の合う乗客同士のコミュニティー」の本質を常に見極める必要があります。

c) 「ソーシャル、つまり相性の合う乗客同士のコミュニティを形成するには、「贅沢な選択肢」の提供が掲げられます。

ラグジュア リークルーズでは、「長期滞在」が基本で、彼らにとって滞在中の食事をはじめ、人の出会いや多彩な娯楽など、感動と感性を覚醒する滞在環境を演出する必要があるのです。

決まり切ったお仕着せの企画ではなく、多くの選択肢の中なら、乗船客が気の向くままに選べるだけの潤沢なメニューを満たす商品企画力が必要となります。

既存のラグジュアリー・クルーズ客船社との差別化のために、新しい試みとして、競合他社のプロダクトのみならず陸上のリゾート・ホテルなどのサービスやそのコンセプトも積極的に導入し、これは多彩な食事の面でも考慮されねばならないです。

(2) クルーズ船客の求める”主観的”価値観と出会いを創る環境 ……船客は、「ストーリー」に価値を求めている

これから始めるラグジュアリー・クルーズ業のターゲットとする客層は、「モノの 所有」よりも、 クルーズ客船上における人との出会いや滞在中の体験などを、「心に刻む」ことに、より価値や感動を求める人たちである。船上での「人との出会い」の出会いを、より感動深いものと感じてもらうことが重要と捉えています。 その場を作るためには、食事の後の充実したロマンスやエンターテイメントや食後酒も必要です。

クルーズ旅行のリピーターは、極めて主観的な旅行経験や体験、そして新しい発見や感動”に加えて自らがどのような扱いを受けたかなどで、クルーズ旅行の価値を考える傾向があります。

例えば、あの従業員の態度が悪いとか、テーブルに着いてから食事の時間までが長いか短いか。隣の旅行者の食事の量は自分のものと比べどうか。ウエイターのサービスは自分に対して差別的でないかとか、それぞれの能力とは別の 所で評価されうる事もあるのです。

どれもかなり主観的旅行経験であるが、彼らはこのような主観で旅行自体の満足度を評価します。自分の旅の「物語」の充足度に価値を求めているのです。

クルーズ事業は、主としてアメリカ人クルーズ乗船客を対象とした彼らの「文化」を 取り込む事業なので、まず何としてもアメリカ人マーケットから受け容れられる仕掛けが必要であったのです。

これを理解していれば、船上での多国籍クルーとの相性が織り成す親密さが創れるのです。自分の身の回りでサービスをするクルーや、毎日食事の際にテープル・ホストとして 2 時間余も会話をこなす幹部乗組員の役割は極めて重要です。

100%のサービスでクルーズ乗船客に受け入れられて、120%で初めて高い評価を得る関係でもあるのです。

(3)クルーズ乗船客と従業員の織り成す「相性」

クルーズ旅行は、船上での「体験価値」が重要な要素となっており、当然クルーズ客船社として は、クルーズ船客が主役の「感動」のドラマをどのように演出するかを考えなければならない。そ の多くの分野では、主役であるクルーズ船客とその脇役である多国籍クルーとの相性で決まると言っても過言ではありません。クルーズ乗船客の期待度が高ければ高いほど、脇役のやりがいは大きいのです。

各種の調査やこの道のエキスパートから、この「ケミストリー」の濃さこそが、 ラグジュアリー・プロダクトの世界では最重要であると指摘を受けたのです。ここを「個性化」し、他のクルーズ客船社とは違うケミストリーを構築する必要性を理解していたのです。

他の既存ラグジュアリ ー・クルーズ客船会社のプロダクトとの差異化も図りつつ、クルーズ船客と乗組員間での 感情面でのつながりを強化します。ここの評価が定着すれば、クリスタル・クルーズ社の顧客層に新会社のプランドが 認知され、ロイヤリティ、つまりリピーター増大も可能です。

一方、クルーズ客船上において人間関係のおりなす相性がうまくいっているときは良いが、1 度でもあるいは些細なことでも「思い出の心」に傷がつくという、非常に厄介な負の部分もあることを理解する事も大事なのです。

その負の部分に無関心であると、せっかく誘致に成功した乗船客を逃してしまうのです。

この負の部分、彼らが何故離反するのかの追及と生産工程のようなゼロディフェクト効果でサービスの質の向上を心がけるシステムの構築が必要なのです。

ラグジュアリークルーズ旅行では、年に数回も乗船するような多くのクルーズ乗船客(リピーター)で支えられている旅行商品なのです。

このリビーターの多さは、クルーズ船客・旅行者の満足 度や感動度の高さと比例している。統計的にこの理由を掘り下げていくと、船上での生活体験と其 処で織り成す「クルーズ船客」 と乗組員との相性にたどり着くのです。

クルーにとっては、 クルーズ乗客船での勤務は、職住が一緒の逃げ場がない舞台なのです。

また年に2度 3度と同じクルーズ客船に乗ると前回と同じ顔ぶれのクルーが、”ウエル カム・ホーム”(おかえりなさい)と 言いながら出迎え、家族の一員のように親しみを持って旅行の手助けをしてくれるところもクルーズ客船による旅行の最大の特徴のひとつです。

彼らとこのリピーターとの多くの交流が、この クルーズ会社の「ファミリー」としての強い絆になる。換言すれば、クルーズ客船の乗組員 は、同じ船の家族 の一員であると同時に、旅行をより快適にするための添乗員の役割も果たしてい ると言えましょう。クルーズ客船上での彼らとの出会いが新しい「滞在価値」を覚醒するのです。

(4) クルーズ乗船客が求める舞台とそれを提供する多国籍クルー

旅行代理店等の販売網(デストリビューション・システム)との覆面調査などの分析を通して、主要船客のライフスタイルを前面に出し、クルーズ乗船客とクルーの交流や接触の機会を高め、 深める仕掛けが必要でした。

ホスピタリティ産業の”商品”を構成するファクターの中で、最も重要なものは、ヒューマンなケミストリーにより構成される想像力とそれを行動に移す実行力です。

そこにはクルーズ客船運航会社の種々のノウハウが凝縮されるわけで、仕掛けで模倣は出来ても、「心」まではそう簡単には真似されないものです。

クリスタルクルーズ社のブランド構築とそれを定着させるその「心」の仕掛け、ブランドの持つ価値を最大限に高める環境作りが 極めて重要であったのです。

この舞台づくりには、それを構成するサービスする側の人材の発掘とキャステング、多国籍人材の国民性や多様性を充分発揮させ、クルーズ乗船客との相性を醸し出し、クルーズ会社独特のクルーズ船客と従業員(乗組員)のケミストリーを作り出すことが最も必要であるとの 認識に至ったのです。

当時のオーナーである日本郵船本社と現場の新会社の幹部間では、「便宜置籍船」方式 の導入を決めていたのですが、当事者間ではこの旅行商品の将来の成功の可否を握る大きな柱でああったのです。

特に、この新規クルーズ客船事業は、企業ミッションで、今まで経験のないような「滞在型のリゾート」のコンセプトを基本としたクルーズ客 船運航会社を創り、優れた旅行商 品を提供すると謳っている。この実現のために、サービスコンセプトの基本に、有能な国際乗組員の採用と運用でクルーズ船客を満足させる船上での体験環境を構築する。サービスに関して は、クルーズ船客 にとって「バリュー・フォー・マネー」(納得感)が評価しやすい環境、すなわち 彼らのニーズに合わせたサービスの提供により満足度や感動を高める、その結果、リピーター率の 向上と彼らを通しての「ロコミ」客などの新規客の誘客層の拡大など、将来の万全の態勢に備える事を認識していたのです。

その「長期滞在」の場を提供するクルーズ客船事業を舞台裏で支えるのは、「多国籍 」乗組員が持つその多様性と感受性の豊かな人材力に賭けることにしたのである。感動は、予期せぬ出 来事などが生み出します。失敗が成功へのヒントになるのは、この予期せぬ出来事のお陰である。考え方も多様であれば、その対応も異なるのです。

ここに目を付けたのである。日本でよく話題になる「同質的な価値基準 (マニュアル) 」での格式的な対応は、多くは問題の「処理」に目が行きがちで、多様な人種や文 化的背景で育ってきたアメリカ人船客の相手により異論を生みやすい傾向があります。感動には現場での問題の「処理」よりも「解決」が重視されなければならないのです。

陸上のホテルの労働環境と異なり、クルーズ船客と同じ生活環境を共有する船上では、ホテル部 門の従業員(乗組員)の個性や国民性をクルーズ船客に「露出する」ことによって、この事業が成り立っているのです。彼らが船上における 滞在環境も含めて愉快に働く環境、従業員の満足度、つまりロイヤリティがあればリピーターの多くは、彼らの仲間になり、満足度も高まり、彼らも 「ファミリー」の一員になれるのです。

「ファミリー」になれば、阿吽の呼吸が機能し、その「ファミ リー 」を構成する船上のクルーは、クリスタルクルーズ社の船上における「旅行商品」セールスマンにもなるのです。

(5) サービスを提供する多国籍クルーによる多様性

アメリカの旅行経験の豊富なクルーズ乗船客に、今まで経験のないような充実した船上での滞在経験を提供するには、世界の人的マーケットから、最善の適材適所の人材を調達する事が不可欠でした。

適材適所の多国籍クルーの採用が可能であれば、最適なクルーとクルーズ乗船客との比率を構築でき、それがクリスタルクルーズ社の成功の鍵を握っているのでした。

この分野で、「便宜置籍船」としての有利さを十分 に発揮する必要があります。多様な人材のリクルートを容易にするような、船籍をバハマ(ナッソー)である事が重要でした。

良質なサービスの提供を、多国籍クルーの採用により、その国民性を背景とした個性に溢れたダイバーシティ(多様性)を最大限に発揮できるサービス環境を構築することが、この事業の仕掛けの中で、最も重要なものの一つでした。

主役であるクルーズ乗船客に充分に 心配りが出来るような船上でのホテル組織を構築する必要もありました。アメリカ人クルーズゲストを念 頭に、サービス部門で言うと、ダイニングに最も適した国民性は何処か・クルーズ客船の 台所であるギャレーのマネージメントは、

「どこの出身者に任せるか?」

「部屋周りのスチュワーデスなどは何故北欧系の女性が好まれるのか?」

などを精査してクルーの国民性などを中心とした混成チームを検討したのです。

クルーズ事業において、船上で働くサービスを提供する人は、彼らの生活や会話 力はもとより、 サービスをする側の「感性」や行動に対する「予見力」が重要になるのです。

エンターテイメントの世界 で言えば、映画の俳優のような、切り貼りが出来、一方通行の役では務まらない。彼らが職住を共 にするので、クルーズ船客の反応を冷静に読み取り、その場で柔軟に対応しながら、臨機応変さに裏づけされた、船上生活と言う舞台周りを創り出すパフォーミング・アーチストでなければならないということです。

船上の生活環境は、アーティストが、観衆を前にしながら、感謝の心とともに、最高のパ フォ ーマンスを見せる舞台なのである。彼らの個性と、そこに滞在するクルーズ船 客のケミストリーが 最も大切なのです。

“浮かぶ別荘”といわれるクルーズ客船での滞在生活が快適か否かは、脇役として のホテルサー ビス部門の乗組員の個性、相性の善し悪しで決まると言っても過言ではありません。

クルーズ会社としては、常に優秀な従業員(乗組員)を確保する事が、サービスの向上のためには必須の要件になります。

それと同時に、従業員の毎日を快適に維持する必要も感じていたのです。自分が、運航会社からリスペクトされたていると認識している従業員は、多くのクルーズ船客に、より多くの感動を与える事を知っていたのです。

船上サービスの「命」である人的要因は、対象顧客にとってもっとも望まれる(国籍的に)適材適 所主義とし、世界の人材マーケットから採用する。多国籍船員の背景にあるナショナリティ(国民性) の特性を最大限に生かすことです。

欧州のそれぞれの国民性の持つ個性や特性を残しながら、それをクリスタルクルーズのサービスミッションやサービス・マニュアルであるクリスタル・ベーシックで、 均質化するを目指す戦略を描いたのでした。

(6) 多国籍乗組員同士による相性

船上でのサービスの基本をなすスタッフの構成に関しては、適材適所を旨として 白紙に絵を描く 作業から始まった。数度にわたる「覆面調査」や旅行代理店、他のラグジュアリー・クルーズ客船 に乗るクルーズ乗船客等との接触でクリスタルクルーズ社にとってのベストの組み合わせた相性を考えたのです。

それは多国籍従業員(乗組員)間の相性のみならず、クルーズ乗船客との相性、すなわち「マーケッ トに聞く」という基本姿勢を貫く事が重要と考えたのです。

船上ホテルにおける、サービス・システムに関しては、アメリカ人船客が高く評 価する欧州スタ イル採用を決めていたが、具体的にはノルウェイ・システムとオーストリーア・システムの良いところを併用し(後のクリスタル・スタンダード)を構築したのです。

適材適所の人材を世界各地から集めるといっても、闇雲に手当たり次第とはならない。

彼らの国民性とか、その生活環境からの個性・経験などが、複雑に絡み合って、アメリカのクルーズ乗船客に、快適なケミストリーを発信する必要があります。そのため、船の乗組員の構成は、アメリカ人船客(マーケット)の意見を聞くこととした。世界でも最上級を狙う以上、それを実現できる人材を、ヘッドハントも含め確保することを基本方針としてこれから採用戦略を練る必要もでした。

つまり、アメリカ人が見る国民性やイメージ、たとえばイタリア人=人との交流、ドイツ人 = 几帳面 さ、ノルウェー = 清潔感を十分に配慮して決めることとした。

クルーズプロジェクトが、具体化する過程で、多くのクルーズ客船の従業員(乗組員)構成などに 関して、現状とそれに対するクルーズ船客側・旅行代理店などの集客組織側の意見を集めていたが、 それらのデータなどを元に、基本的なクルーミックス(従業員構成)の基本構成を描くこととなった。

a) 本船運航部門においては、マーケットを席巻している仮想競争船社としての ロイヤル・バイ キング社や NAC 社が念頭に有り、北欧系の船長を含め、日本郵船の優秀な乗組員も乗せ、幹部船員 については、ノルウェー船長他、ノルウェー・日本人の混乗(日諾混乗)とすることとした。

オーナー側の日本郵船東京本社としては、ノルウェー船長は「接待」要員としての船長で、運航の実務は日本郵船の船長が握るとの発想で始まったのです。

また船上におけるホテル部門については、ヨーロッパ系ホテル従業員の起用を次のように考えた。

・ ホテル、ダイニング従業員 ヨーロッパ系
・ スチュワーデスクルーは北欧系
・ ダイニングのギャレーはオーストリア人シェフ

他にもエンターテイメント部門トップ 上品な個性と「スタイル」を持っている英語国出身者が起用されたのです。

(7) クルーズ船客と乗組員の乗船比率

長期滞在の場を提供するクルーズ客船事業は、「滞在型のリゾート」のコンセプトが基本になっています。クルーズ乗船客層を絞り込んだライフスタイルを基準にした客相に合わせて、彼らにとって 最も快適な環境をづくりを考えると、今までの調査などで、適材適所の国民性以外に、サービスする乗組員の人数の試算も重要になってくるのです。

これはサービスに加え、コスト或いは彼らの為の居住空間にも影響を与えることになるのです。

主役であるクルーズ乗船客に充分に心配りが出来るような、船上でのホテル組織(乗組員) とクルーズ乗船客の比率も重要な指標になります。その船上における、クルーズ乗船客とクルーの比率を、1.8 対 1 と、ラグジュアリー・クルーズの中では最大級のレベルを目指すこととしたのです。これは 新造船の従業員部屋の数 にも影響を与えるのです。

(8) 「日常的」滞在環境

クルーズ旅行に於いては、常にクルーズ船客・旅行者が主役です。

クルーズ客船は、船長や 従業員(乗組員)だけのものではない。クルーズ客船は、寄港地(目的地) での観光以外に、船上での ライフスタイルの滞在「体験環境」(旅の過程 = プロセス)が重要です。

その実現のためには、船としても、その舞台裏の演出が大事です。その舞台は、主役であるクルーズ船客層の共通の文化的・ 社会的背景、すなわち「日常的」ライフスタイルが、常に反映されたものでなければならない。ク ルーズのような滞在型の旅には、「非日常的環境」は無理があり、長続きしないし、堅苦しく飽きが来易いのです。

気楽さと時間などに追われることがないことが重要で、クルーズ客船会社が絞り込んでいる客層の中で、船上での多数を占めるクルーズ船客の国籍や文化的共通性をベースにしたものになるのです。

旅行商品をつくる立場のクルーズ会社としては、彼らの対象とする客層のライフスタイルを充分理解した上で、構想を練る必要があります。

ラグジュアリー・クルーズ・マーケットに於けるクルーズ旅行商品の革新には、クルーズ客船会 社に、クルーズ客層を合わせるのではなく、客層や客相やその傾向に合わせて、クルーズ客船会社 が、ライ フスタイルの「時代の先取り」をする先見力が求められる。

アメリカ船客を客層とするクルーズ会社から見ると、アメリカ人旅行者にとって は、クルーズ客 船上での生活は、英語が通じ、食事も娯楽も、アメリカでの生活そのものであり、まさに”日常” の状況を、海上・海外にまで延長したに過ぎない(これは、日本では“非日常性”となる。クルーズ に対する見方も文化的価値観に基づく一例と言えます。

アメリカ人ゲストにとってクルーズの魅力は、アメリカでの日常生活舞台をそのまま外国に延長し、その上で、新しい国々や異国を訪ねること。

それに深夜まで、食事とかエンターティメントを楽しんでもその間も船は移動しており、翌朝は、新しい観光地に着いていることなどが、クルーズ旅行の醍醐味なのです。

その意味では、クルーズ会社は、このアメリカにおける日常性を前提に舞台回りを設営してきたのです。寄港地に着いて陸にあがれば外国で、船に戻れば、アメリカが在る舞台です。

アメリカ人旅行者を対象としたクルーズ客船が、アメリカ的雰囲気に溢れているのは、これらの要素を運航会社が理解した上で舞台づくりをしているからです。

クルーズ会社は、滞在型休暇の宿命として、この様に船上で大多数を占める船客の国民性や文化性が前面に出た旅行商品であるとの現実を無視し、クルーズ客船運航会社が自らの”主観的経営哲 学”だけで事業を始めてもなかなかうまく行かない場合が多いことを、過去の経験から学んでいるのです。

クルーズ乗船客は、1 人 1 人が異なった価値観に基づき旅行を楽しんでいるが、クルーズ客 船会社としては出来るだけ最大公約数的基準を設定し、潜在的船客需要が何処にあるのか十分事前に調査し寄港地、行き先、船上でのクルーの構成、サービス方法、食事、催し物を考えながら、船自体の建て構え・雰囲気を備えた舞台づくりを心掛けていたのです。

クルーズ旅行はこのような多数を占める国籍のクルーズ乗船客を主役としたエンターテイメントショービジネスであると言っても過言ではないと思われます。

(9) パッセンジャーミックスとクルーズ・マッチ

クルーズ乗客船は、クルーズ旅行者のライフスタイルの延長線上に存在します。しかし、クルーズ乗船客の客層によってクルーズ客船と言う舞台装置、つまり滞在環境は 全く異なっったものになるのです。

クリスタルクルーズ社はアメリカの将来対象とすべき、クルーズ乗船客のライフスタイルの分析に、多くの時間を費やしていたのです。陸上のゴルフクラブや社交クラブの場合、その入会金として、入会料を貰う事によって、会員などのセレクションが可能であろうが、クルーズ客船は、そのような方法は採用できません。

船上のライフスタイルが、ゴルフのカントリー クラブのような雰囲気であっても、それは閉ざされた会員だけのものではないのです。すべてがアメリカの消費者マーケッ トに対してオープンなのです。これとの関連で下記の面から検証が必要になるのです。

一つは、この様な対象とされたライフスタイルを持った、同じような価値観を持つクルーズ船客にとっては、クルーズ乗船客同士の居心地がよく、お互いの社交や 交流も活発になるのです。これがクルーズ客船社の滞在環境に良い意味の刺激を与えます。これが人と人との織りなすケミストリー、お互いの相性のベストマッチングが重なって、より快適な滞在環境が出来上がるのです。

プリンセス・クルーズ社のアイランド・プリンセス号船上での出来事をテレビドラマ化した「ラブ・ ボート」は、船上で起こる人と人の出会いのをロマンチックに描き、アメリカで長期間の人気番組でした。このような船上におけるクルーズ客層の心地よい交流には、 クルーズ客船の特徴を捉えることが必要になるのです。まさにヒューマンビジネスと位置づける事ができ主役は常に乗船客なのです。

一方、全く異なった価値観を持ったクルーズ船客が、異なったコンセプトをもとにでき上がったクルーズ乗客船に乗ると、不快な事も多く、滞在型の休暇を台無しにしてしまうモノです。

どのクルーズ客船に乗船するかは、その旅行の楽しみ方にも影響を与えます。なぜなら、一度船に乗ってしまえば、船の雰囲気が違うといって、簡単に下船するわけにはいかないし、予定の変更も不自由になりかねません。

それゆえ、乗船客とクルーズ客船のミスマッチを避けなければならないのです。

ラグジュアリー・クルーズ客船会社は、販売ネットワークの核を成す旅行代理店などに、

「自らの絞り込んだ客層は、そのようなイメージなのか?」

「滞在中の生活環境は、他社に比べて何が違うのか?」

など、営業企画面や運航面における特徴を前面に出し、試乗など乗船活動を活発化し、その違いを具体的に知って貰う必要があるのです。

クルーズ旅行経験者・旅行代理店等を新会社の味方につけ、彼らの顧客と新会社のクルーズ旅行商品との相性を理解し、適切なクルーズの相性探しというシステムを構築する必要があるのです。

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