NOBUの味が洋上で味わえる

松久信幸氏が特別ゲストとして「クリスタル・セレニティ」乗船された時の一コマとメニュー

クリスタルクルーズ船上で提供された「NOBU」の料理の数々

日本食に南米料理のエッセンスを取り入れて、創造性あふれるノブ・オリジナルを確立させたシェフ、ノブこと松久信幸氏。その世界的に有名なシェフが、2003年クリスタル・セレニティのレストラン&すしバーをプロテュースしました。

その時のエピソードをご紹介します。

―クリスタル・クルーズには10年前にシドニーからニュージーランドまでゲストシェフとして乗船したのが最初だという伺いました。

フランス人の友人、ミッシェル・フランシエがクリスタル・ハーモニーのコンサルタントをしていたことから話がきたそうです。

「2日間乗船しましたが、船はひとりで乗るものじゃないですね。奥さんか女性と乗りたいと思った」

と当時を振り返るノブシェフだが、その後、クリスタル・クルーズの高橋光彦会長と知り合うことで、より深い付き合いをしていくことになっていくのです。

松久氏:それまでもゲストシェフとして何度か乗船したり、ニューヨークやロサンゼルスに停泊中のクリスタル・ハーモニーでランチに呼んでいただいたり、と時々船に行く機会はありました。

今回高橋さんにセレニティでぜひ僕の料理でやりたいといわれ、そこまで言っていただけるなら、と引き受けました。

高橋さんとは長いつきあいですが、彼のクリスタルへの熱意に感動して、何か僕が役に立てることができないかと思ったんです。

セレニティでやることが決まってから、シェフは丹波君、中口君とNOBUアスペンで働いていて8月から乗船する小林君の、3人のマツヒサ卒業生を送り込むことにしました。

NOBU東京の共同経営者ロバート・デ・ニーロ氏が好物のNOBU看板料理の一つ「銀鱈の西京焼き」もゲストに好評

―新鮮なネタが命のすし屋を洋上で開く。そこには陸上とはまったく違う食材の調達方法があり、陸上のようにはいかないことがたくさんあるはずです。客船ならではの問題にどのように取り組んでいくのでしょうか。

松久氏: できるだけ各港で新鮮な食材を積み込んでそれを出せるようにしたいが、来ていただいたお客さんすべてに出せるほど十分かどうかはわからない。

最初はベーシックなメニューコンセプトでやっていこうと思います。

7月7日からの処女航海に僕も乗船し、丹波君や中口君と一緒に船の上で考えながらチャレンジできるようにしていきたいですね。

ただ世界中をまわるクルーズですから、各寄港地で出会ったものも生かしていきたいと思っています。

でもその国に行くからそこの料理を作るのではなくて、それぞれの土地で出会う食材を使った僕なりの新しいメニューができあがると思うので、どんどんクリエイトしていきたいですね。

―「モットーは、ビジネスの基本である『今日は一日何人入って、いくら売れてもうかった』ということよりも来ていただいたお客さんにどれだけ喜んでもらえるか、ということ」と言い切り、どこまでもゲストの満足にこだわるノブシェフ。

陸上のレストランと違って料金はなく、2週間のクルーズ中、同じゲストが何度もやってくるという特殊な状況の中で、その旺盛なサービス精神は存分に発揮されそうです。

松久氏:そういった食材の調達以外でできることならば、メニューにあるものだけを作るのではな、お客さんとコミュニケーションを取りながら料理を作っていければいいですね。

日本人のお客さんでしたら「お茶漬けとかおそば、またあとで部屋でおにぎり食べたいとか必ずあると思うんですよ。そういうリクエストにも応えていきたいです。

お客さんの中には自前で何か持ってきて「これで作ってくれるか」と言ってきたりしたものにも、もちろん作ってあげたいなと思います。

田楽や冷奴など日本人ゲストにも好評のNobu Styleの和食 

すしバーというのは普通のレストランと違って、シェフが直接お客さんとコミュニケーションできる窓口ですから、いろいろとお客さんの意見を聞くことができる。

お客さんにとっても今までのクルーズと違った雰囲気を味わえると思います。

どこまでお客さんが心を開いてその要求を伝えてくれるかが、どこまでそのお客さんに入り込むことができたかという答えになります。

できる限りの食材の中で、どこまでそういった要望を満たしてあげられるかというのがポイントで、「ありません、できません」とは言いたくないですね。

―世界中に60店舗近くあるNOBUをこまめに回り、その間にテレビに出演したり、映画の話もあったりするノブ・マツヒサは忙しい。

そんなめまぐるしい生活を送るセレブリティシェフが持つクルーズのイメージとは「夢」。何もすることのない時間はとてもぜいたくなのだといいます。

松久氏:船内にいる時間は、次は何をしなきゃいけないというスケジュールがないし、急ぐ旅ではない船の中のあの空間の贅沢さは乗ってみないとわからない気がします。

仕事ではなく、将来的には2~3カ月でも乗りたいですね。今は飽きてしまうかもしれないけど。ただ、今こういった旅ができる人がいるというのはとてもうらやましい。

船内では静かに過ごしていますよ。普段がインドアなので、好きな時に日にあたって、たまにゴルフをして……。

仕事をしているとそうもいかないのですが、携帯電話もない状態でゆったりとした時間を過ごすというのが今の僕が必要としていることだと思います。

またクルーズの楽しみといえば、着いた港で市場に寄ること。

いろいろな場所に行くことはあっても時間がなくて市場に行けなかったりするのですが、クルーズでは下船して何をするのも自由ですからね。

ただ1人で乗った時には退屈してしまい電話代だけで4000ドルくらいしてしまいました。

といっても船上で生活していく中で、毎日デッキやジムで同じ会う人がいるんですね。いろんなところでいろんな人に知り合うことができた、それがクルーズのまた一つの魅力でしょうね。

―船ならではの特徴として「船では雨だとか電車の事故だとかでキャンセルされることがないから、何人来るかというのが陸上よりわかりやすいですね」と笑うノブシェフだが、そのほか世界を股にかける仕事をするノブ・マツヒサならではの「移動型洋上レストラン」の利用の仕方も考えているようですが。

ノブ:セレニティにはほかのレストランと同じように定期的に見に行きたいと思いますが、ロサンゼルスからロンドンのNOBUまで行く時に、スケジュールが合えば途中でセレニティに乗っていったりすることができたりもするでしょう。

そういった可能性はこれからたくさんあると思うので、考えると楽しいですね。

NOBUはマイアミ、ニューヨーク、イギリス、イタリア、アジアなどにありますので、例えばそういった港にクルーズでやって来たときにNOBUに行ってみようということになったら、たまたまレストランに僕がいたりして、ということもあるかもしれません。

―船上で新鮮な食材を入手して最高の料理を作るのはとても難しいことではないか、という質問に、「何か新しいことを始めるときには問題が必ずあるもの」

今から心配しても仕方ないし、いろいろなことが起きる中で学ぶことも多い。むしろたくさん出てきたほうがいい。

チャレンジを楽しむ。何事にもポジティブに取り組むその姿勢が、世界中を魅了するNOBUレストランのパワーなのだろう。

「年に3~4回は乗って、そのたびにクオリティーを高めていきたい」と語るノブシェフ。

【プロフィール】

埼玉県生まれ。東京・新宿の「松栄鮨」に住み込みで修業した後、ペルーやロサンゼルスのすし屋などで働く。87年にビバリーヒルズに第1店舗「マツヒサ」をオープン。93年にはニューヨークタイムズ紙による全米ベスト10レストランにランクインするなど、セレブリティにも大人気のレストランとなり、現在世界に57店舗のレストランとホテルを経営する。伝統的な日本料理をベースに、南米料理のテイストを混ぜ、トリュフなど高級食材と組み合わせた斬新で新しい食のスタイルを生み出した。

また友人で俳優のロバート・デ・ニーロに誘われて映画「カジノ」に出演したり、NOBU常連のスティーブン・スピルバーグ監督とマイク・マイヤーズが一緒にやってきたのがきっかけで映画「オースティン・パワーズ~ゴールドメンバー」に出演するなど、幅広い交友関係から、活動の幅を広げている。

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