
これからのターゲティング
富裕層のリベンジ・トラベル熱が高まる今、本レポートは『ウェルネス立国』日本の珍妙なオリ エンタリズムを切り口に、トレンドとなっている『Luxury Travel』(上質な観光サービス、富裕旅行)において、富裕層が求める旅のあり方はどういうものなのか探っていきます。過去最低を記 録した2021年の訪日観光者数は2019年比、99.2%減の24.5万人でした。そのうち、中国、ベト ナム、アメリカ、韓国が2万人以上でした。コロナ感染症の影響が出る前の2019年には、訪日客数は過去最高の3188万人を記録し、1位中国959万人、2位韓国558万人、3位台湾489万人、 4位香港229万人、5位アメリカ172万人でした。訪日アメリカ人観光客数においては、対前年度 でも12.9%アップと堅調な伸びを見せるなど、ここ6年間訪日者数は伸び続けており、2014年に おいては89万人だった客数は、2019年には約1.9倍にも膨れ上がっています。また訪日アメリカ 人のインバウンド消費額も伸び続けており、2014年においては1,475億円、2019年には約2.2倍 となる3,265億円となっています。
観光庁の発表によると、2019年の訪日外国人旅行消費額は4兆8,135億円と推定されており、1 人当たり旅行支出(一般客)は15万8,531円となっています。国籍・地域別に旅行消費額をみると、中国が1兆7,704億円(構成比36.8%)と最も大きくなっています。次いで、台湾5,517億円 (同11.5%)、韓国4,247億円(同8.8%)、香港3,525億円(同7.3%)、米国3,228億円(同 6.7%)の順となっており、これら上位5カ国で全体の71.1%を占めています。なお、2019年の 訪日アメリカ人一人当たりのインバウンド消費額は189,411円を記録しています。費目別に旅行消費額をみると、買物代が34.7%と最も多く、次いで宿泊費(29.4%)、飲食費(21.6%)の順 で多いのですが、訪日アメリカ人の支出においては少し様子が違います。最も大きな割合を占め たのは宿泊費で、83,125円でした。2番目に大きな割合を占めたのは飲食費で、48,279円でした。 宿泊に全体の約4割、飲食を合わせた寝食の支出は全体の約7割を占め、長期間滞在する観光客が 多いことが分かります。
これからのことから、コロナ後の段階的回復期に『ウェルネス』戦略でインバウンドの『Luxury Travel(上質な観光サービス、富裕旅行)』構想を展開するには、非アジア圏のアメリカ人観光 客と一番相性が良さそうだということが浮かび上がってきます。
訪日アメリカ人富裕層が望むサービスとは
日本への旅行に求めることとして「街を散策する」「観光名所を訪れる」という回答が多く、18 項目中で1位、2位という結果になりました。また、「博物館や美術館に行く」が中間層よりも特 徴的に多いことからも、富裕層は自然よりも街を好む傾向があるといえそうです。なお、中間層 が最も高いのは「自然景観を楽しむ」で、街を好む富裕層と対照的な結果になっています。
直近3年以内に訪日経験がある人とない人(共に富裕層)とで比較すると、2回目の訪日では「コ ト消費」を志向する傾向が見られます。訪日経験がある人は「自分を解放する」「その地域特有 のレクリエーションを体験する」「その地域特有のイベントに参加する」「バーやクラブでナイ トライフを楽しむ」といった「コト消費」の項目が高くなっていました。病気を良くする、検査 する(ヘルスケアツーリズム)は15.2%で、まだ開拓の余地がありそうです。またヘルスケア ツーリズムを健康面だけで捉えるのではなく、ウェルネス(全体的なヘルス)へと拡大して情報 提供することで、ポイントを伸ばせる可能性があります。「また行きたい」「行ってよかった」と 思ってもらうためには、その地域のオリジナリティがあふれる「コト消費」を意識した施策や訴 求が有効であることがわかります。
滞在先の自治体に注力してほしいことの項目では「外国人向けの情報発信の充実(インターネッ ト)」「フリーWi-Fi通信環境の充実」が富裕層、中間層ともに上位にきています。、ネット環境 の充実はソフト面、ハード面で大事なファクターになっています。中間層と7.1ポイントの差をつ けた富裕層に特徴的な要望として、5つ星ホテル(ラグジュアリーホテル)の充実が挙げられています。
また、富裕層は中間層と比べて「オーバーツーリズムの緩和」を望む傾向があるようです。「オー バーツーリズム」とは、観光地が耐えられる以上の観光客が押し寄せる状態(過剰な混雑)のこ とで、世界的な問題となりつつあります。それに対すして、中間層と比較してアメリカ富裕層が望 む改善要望策として「名所、観光地、美術館/博物館等の入場料の値上げ」という回答に8.1ポイ ントの開き(富裕層31.2%/中間層23.1%)が出ている点に大きなヒントがあると思われます。他の回答は以下の通りでした。(「インテージ調べ」)
・早朝からの名所、観光地、美術館/博物館等の営業(富裕層42.2%/中間層43.3%)
・ホテル/宿泊施設の総量規制(35.3/36.5)
・まだ観光客が少ないエリアへの案内/誘導(32.6/33.7)
・早朝からの名所、観光地、美術館/博物館等の予約入場制度(29.8/30.8)
・旧来名所旧跡ではない、新しい観光コンテンツの開発/誘導(23.9/20.2)
富裕層アウトリーチ
アメリカ人富裕層の旅行トレンドや目的をアメリカのサイトで検索してもなかなかデータが出てき ません。富裕層の情報源は、一般庶民とは違うのではないかと感じています。個別カスタマイズ で旅をオーダーしているためと推察します。日本ではあまり馴染みがありませんが、旅行商品に特 化したMLM形態のビジネスが増えてきていることも背景にあるのかもしれません。
いずれにせよ、訪日外国人富裕層が求めるコンテンツや情報提供が十分に行き届いている状況に はなく、パイが大きい割には未発達の市場であると言えそうです。
5つの「日本ウェルネス」トレンド
4.2兆ドルのウェルネス市場が見込まれています。日本における5つのウェルネストレンドを見ていきましょう。世界のリーダーであるGlobal Wellness Summit (GWS)の第13回国際会議が 2019年10月15~17日、グランドハイアット香港において開催されました。それに先立ち、 GWSは東京でVIP懇談会を開催し、国内外のウェルネス分野における日本の機会や可能性に関して議論を行いました。
懇談会には、ベネフィット・ワン、富士フイルム、Healthcare Laboratory、花王株式会社、森トラスト株式会社、清水建設株式会社、ソニー、ヤクルト本社を はじめとする日本企業の幹部及び役員、並びにGWS理事兼CCOナンシー・デイヴィス氏、さらに 共同議長としてConceptasiaの相馬順子代表取締役社長が出席しました。その時に話されたこと をレポートします。
ウェルネス ツーリズムブーム
6,390億ドルの国際ウェルネスツーリズム市場の中で、アジアはその成長率が突出している地域で す。アジアにおけるウェルネス旅行は、2015年から2017年にかけて33%増という驚異的な増加 を見せ、市場規模は年間2億5800万ドルに達しました。日本のウェルネスツーリズム市場は世界 第5位であり、温泉などの大きな強みを持っているにも関わらず、他のアジア諸国と比較するとそ の成長率は鈍いと言えます。
2015年から2017年の間に、日本は270万件のウェルネス旅行があった一方で、ウェルネスツー リズム分野の成長率で世界1位と2位にランクした中国とインドは、それぞれ2,200万人、2,700 万人増加しました。さらにマレーシアは330万人、ベトナムは320万人増となりました。インド ネシアやフィリピンも含め、2015年から2017年にかけてこれらのアジア諸国が全て20~ 30%、またはそれ以上の成長率を記録した一方で、日本における成長率は3.5%にとどまりました。
アジア圏全体のウェルネスツーリズムによる収益は1,370億ドルから2,520億ドルに倍増するとも 見込まれています。 日本には自らのウェルネス文化と目的地を過小評価しています。
日本にはウェルネス旅行者が渇望しているユニークな財産―独特な温泉文化、僧侶との瞑想、森 林浴、薬と精神芸術を兼ねた「食」が存在します。今後日本が「日本ウェルネス」を打ち出し、 国内のウェルネスツーリズム市場を成長させるための機会は大いにあります。ウェルネスは日本 の確かな強みであり、それをより明確に宣伝すれば、持続可能かつ高収益な観光産業の形成を推 進し得ることは間違いありません。
温泉は旅行者の間でもホットな旅先です。日本の温泉資源は世界に比類がなく、21,000近くの温 泉が存在し、世界の温泉施設の約3分の2が日本に集中しています。
将来的には、別府のインターコンチネンタル、来年にオープンする北海道ニセコのパークハイアッ トやリッツカールトンなどの進出により総合的なウェルネス体験を提供する高級温泉リゾートが増加すると思われます。
近年は日本的な温泉のアジア進出も進んでいて、中国、台湾、東南アジアでは、 極楽湯ホールディングスなどの日本企業による温泉開発が活発化しています。台湾では先日、星野 リゾートが地域初となる温泉リゾートを開業しました。
精神的な癒しと幸福感の探求の2つは、最も強力な世界のウェルネストレンドで、2018年に日本 の寺社を観光客に開放する法律の制定と「寺泊」(寺院の宿泊施設のAirbnb)の出現によって、 多くの旅行者が数多の寺院で禅に触れることができるようになりました。
『森の中で時を過ごす詩的な薬』とも表現される森林浴は、80年代に日本で発展し、近年では世 界的な現象となって、世界中のウェルネスリゾートが毎月新たな森林浴プログラムを打ち出してい ます。 62の森林セラピー認定ロードと、多くの訓練されたガイドを擁す本場・日本で、森林セラ ピーを体験したい旅行者は増加するでしょう。
日本は観光に関して2つの重大な問題に直面しています。まず、オーバーツーリズムが各地の史 跡、京都-大阪-東京ルートのキャパシティを超えてしまうこと、次に、外国人観光客の激増にも関 わらず伸び悩む観光収入という不均衡な状態であることです。
ウェルネスツーリズムはいずれの問題をも解決し得ます。日本は2018年に3,110万人という記録 的な数の観光客を集め、さらに2030年までにその数を6,000万人に倍増させることも狙っていま す。これを持続可能なものとするためには、旅行者を分散させねばならず、戦略的に計画された ウェルネス観光地帯、ルート、およびツアーが必要です。
具体例としては、ハイキング、地元の食べ物や工芸、温泉等のプログラムを含む中部地方の「ドラゴンルート」や、人混みを離れ、地元ならではの食事、温泉、素朴な旅館が味わえる「Walk Japan」等が挙げられます。日本政府観光局は、2020年までに訪日観光客の支出を80%増加させ ることを望んでいると明かしました。ここでも、ウェルネス旅行者が良いターゲットとなります。 平均的な訪日観光客は一回の旅行で1,436ドル消費するのに対し、ウェルネス旅行者は平均2,192 ドル消費します。
脚光を浴びるJ-Beauty
自然由来、機能的、無毒、持続可能な製品が急増し、消費者は修復よりも予防を求めて、1.1兆ド ルの美容市場を一層拡大させています。ここ数年は「K-Beauty」が注目の的でしたが、いまは、 最新の美容トレンドと合っている日本のハイテク&自然由来のアプローチ「J-Beauty」が急上昇 しています。
K-Beautyは、気が遠くなるようなステップ、極めてエキゾチックな製品、最新のカラーとメイク アップトレンド、派手なパッケージを展開し、セレブの支持を得ています。
一方で日本の美のアプローチは、ミニマリズム、予防、保護に焦点を当てています。透明感を強 調するクレンジング方法、王道ではあるが確かな効能を持つ成分、そして高度な科学技術。その 目指すところは、メイク要らずの健康的で明るい「美白」肌です。
美容ビジネスにおける変化は、美容トレンドの変遷を示しています。最近では、ユニリーバが日本 の芸者の美容法に着想を得たスキンケアブランドTatchaを5億ドルで買収するといった動きがあ りました。また、Jill Stuart Beautyの米国進出など、より多くのJ-beautyブランドが急速に存在 感を強めていて、 Estée Lauder等の世界の主要ブランドが、日本的要素を取り入れつつあります。
さらに日本には、美しさに関して非常に未来的な発想があります。資生堂は、横浜・みなとみら いに、76,000平方フィートのS / PARKをオープンしました。
研究所、レストラン、博物館、皮膚診断美容バーを備えたグローバルイノベーションセンターで す。シワ・たるみ補正技術「セカンドスキン」(特許取得済み)や、皮膚の状態や天候を考慮した 上で分析、高度にカスタマイズした製品を提供するOptune等の開発を行っています。
DHC、Ipsa、花王株式会社のポートフォリオ、NatureLab Tokyo、シュウ ウエムラ、SK-II、雪 肌精等々のいずれにせよ、Japanese beautyの機運は高まっていて、これは長期的なチャンスで あると言えます。
スマートハウスと健康未来都市
私たちが日常的に住む場所こそが、我々の健康の80~90%を左右します。つまり、新たなウェル ネス不動産とコミュニティが次のフロンティアというわけです。都市の無秩序な膨張と汚染問題に 悩むアジアは、2022年までに世界最大̶780億ドルのウェルネス不動産市場となります。既に建 設された、または計画中の740件のウェルネス不動産プロジェクトのうち、293件がアジアにあ り、プロジェクト全体の約半分を占めています。現在の日本のウェルネス不動産市場の規模は約 22億ドルで、世界10位に位置しています。
ウェルネス不動産プロジェクトは、「ホームバイオーム」(空気、水、音、光の質)の改善から、 「孤独の時代」に人と人の繋がりを築くコミュニティまで、さまざまな角度から取り組まれていま す。高い技術力を持つ日本には、新たなスマート健康都市・住宅の構築において主導的な役割を 果たすチャンスがあります(この分野は2021年、既に1兆ドルの市場となっています)。スマー トシティ・スマートコミュニティは、電子データ収集センサー、AI、AR、自動運転、遠隔医療な どを使用して、我々の生活環境を根本的に変革します。これは5GおよびNB-IoT技術の発展、普及 よって飛躍的に加速すると思われます。
スマートシティプロジェクトの次の波は、世界の家庭や都市の需要に応える、健康とウェルネス を軸にした新技術の活用です。
フロリダ州タンパ近郊のコネクテッドシティプロジェクトは、住民に最新の医療と予防ヘルスケア を提供するためのテクノロジーが導入された最初の「スマートギガビットコミュニティ」と呼ばれ ています。パナソニックは、神奈川県藤沢市にエネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネ ス、コミュニティに焦点を当てたFujisawaサスティナブル・スマートタウンを構築しています。国 連の予想によると、世界人口の68%は2050年までに都市に居住するようになり、日本は未来の ハイテクウェルネス都市のリードエンジニアになり得えます。
日本のAge-Tech
世界は前例にない速度で高齢化しています。50歳以上の人口は2050年までに倍増し、32億人に 達します。その中でもアジアは最も速く高齢化していて、60歳以上の人口は2010年から2050年 の間に3倍、13億人、つまりアジアの4人に1人が60歳以上となります。
そして、日本は少子化と長寿により、人類史上初の超高齢社会に突入します。現在、日本の人口の 27%が65歳以上であり、2050年までには、現役労働者100人に対して退職者70人という構造と なります。これは日本経済にとって重大な課題であり、高齢化は世界の社会、市場、政府の政策 を大きく変化させていくでしょう。
しかし、変化は、機会ももたらします。西から東へ、老化は積極的に再定義され、クールとすら 言われるようになりつつあります。高齢者向けの製品及びサービスは15兆ドルの巨大な市場であ り、日本は他の先進国もまもなく迎える時代を最初に経験するでしょう。
来たる「長寿経済」を革新する絶好の機会であり、利用者に焦点を当てた独創的な技術とデザイ ンにより、日本は人々のモビリティを維持する技術、シニア住宅の再開発、ソニーのaibo(アイ ボ)のようなロボットペットといった、高齢化する社会を支える製品/ソリューションの先駆者に なり得ます。今後は、ミレニアル世代への狭い執着を超えて、今日の高齢消費者の消費力と新しい 「積極的な老化」の考え方を取り入れるブランドが発展していくと予想されます。
職場における健康:メンタルウェルネスに焦点を
アジアは、「過労」で悪名高く、日本の労働者の5人に1人が『karoshi』(過労死)の危険にさ らされているというニュースは、数年前に世界から注目を集めています。過労は心臓病、肥満、依 存症、糖尿病の原因となり得ることが証明されており、仕事に関連するストレスが、企業に年間 3,000億ドルの費用の負担をかけています。アジアのワークライフバランスの問題は、ヒトとビジ ネスにとって、大きな障害です。アジアの労働者のうち、何らかの形で職場の健康増進プログラム を使える労働者は、5%に限られます。この480億ドルの世界市場において、アジア太平洋地域は 職場の健康に年間93億ドルしか費やしておらず、その影響を受ける労働者はわずか9,300万人で す。
日本は、アジアにおける比較的ポジティブなケースです。日本は米国に次ぎ、世界で2番目に大き い「職場の健康市場」であり、年間39億ドルを費やして、6,600万人の労働者のうち2,140万人 が職場の健康増進プログラムの恩恵を受けることができます。
現在日本では、労働文化を積極的に変えるための、真の改革が進められています。安倍元首相 は、働き方改革を経済の中核課題の一部に位置付け、また企業に対して従業員の福祉向上を支援 するよう求めました。しかし、不安やうつ病など、精神の健康に関する問題が多発しているにも 関わらず、職場では身体の健康・フィットネスに焦点が当てられています。Bloomberg Healthiest Country Indexによると、『日本は世界で4番目に健康な国ではある。』しかし経済 協力開発機構(OECD)によると、『日本人は他の裕福な国の住民に比べ、実際に健康であると 回答する可能性ははるかに低い。』といわれています。
日本の職場からメンタルヘルスの「タブー」を放逐する必要があます。職場における健康増進プロ グラムは、企業文化の改善に焦点を合わせる必要があります。具体的な方策として、誰もがメンタ ルヘルスサービスを利用できる仕組みの構築があります。そして瞑想、ヨガ、健康的な睡眠プログ ラム、麹町テラスオフィスのような、自然を身近に感じる「バイオフィリックデザイン」 (biophilic office design)を取り入れたオフィスなどのメンタルウェルネスアプローチです。また高齢の従業員の業務改革などが挙げられます。
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