ラグジュアリークルーズビジネス

3種類の異なる客層のセグメント

クルーズのメッカであるアメリカでの旅行者のマーケット調査によると、クルーズ業界では主に3種類の客層が存在します。

・カジュアルクラス。
・プレミアムクラス。
・ラグジュアリー・クラス。

上記の3種類のうち、カジュアルクラスとプレミアムクラスは、「マスマーケット」と呼ばれており、市場の95%を占めています。この記事では詳細は割愛して、残り5%のラグジュアリークラスのマーケティングについて述べたいと思います。

日本において、クルーズという新しい旅行のライフスタイルがほとんど浸透していない頃から普及活動を行なっておりました。日本の場合は「富裕層のための旅行」という認識でしたので、日本マーケットの場合、ほとんど見向きもしないマニアな世界と見られていたのです。

小生も旅行業界に精通しており、クルーズのメッカアメリカでは気軽に温泉旅行やバスツアーに参加する軽いノリでクルーズを楽しんでいることをあからさまに見たのでです。

今から20年前にマイアミに出張した際、現地で旅行会社を経営していたオーナーから「クルーズを事業にするならラグジュアリークラスが良い」と言われたことが昨日のごとくこの言葉が蘇ってきたのです。

当時はその言葉を十分に理解できていなかったのですが、今になって凄く納得するものを感じます。そこでアメリカを中心にラグジュアリークラスのマーケットの調査に取り掛かったのです。

そして調査を進めていく毎に、ラグジュアリークラスの規模や客層のプロファイルが、よりセグメントできたのです。

大きな特徴としては客層が絞り込まれたラグジュアリー・クルーズには、世界周遊型であることが特長です。季節に合わせた多様な寄港地、その寄港地での観光やエンターテイメントに加え船上イベントが顧客のニーズ合った内容であるが非常に重要だと気づいたのです。

すなわち、アメリカ本土から行きやすいカリブ海など のゾーン型クルーズ運航を指向するカジュアルやプレミアム・クルーズとは異なり、ラグジュアリ ー・クルーズは、長期滞在のクルーズ旅行で一粒でも二度美味しい旅のスタイル「ワン・トリップ・ ツー・バケーション」の充実度を極めることが必須でした。

クルーズにおけるワントリップ・ツー・バケーションすなわち、食事等も含めた船上イベント とエンターテイメントの質や寄港地観光の充実度が重要な要素になります。その充足感が、リピ ーター率を高めます。

運航における多様な寄港地と企画力、船上におけるクルーズ旅行者の充実した1回の旅行で2度楽しめる「ワントリップツーバケーション」という旅のスタイルがゲスト(乗船客)の満足度による判定が事業の成功の可否を決めると言っても過言ではないことがあからさまになったのです。

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船長主催のウェルカムパーティーの一コマ

ラグジュアリークラスの顧客の特徴

カジュアルクラスやプレミアムクルーズとは異なり、長期滞在の体験型旅行の形であるラグジュアリークルーズの場合、船上での生活環境や、乗船客のライフスタイル、そして、その旅行空間に存在する人間の織り成す相性が最も重要な要素を占めることがより明確になったのです。

商品とサービスの基準は、受け手である顧客のフィーリングやその時の感情で判断される傾向が強いのです。

ラグジュアリークラスのクルーズの平均滞在日数は約2週間。

その間、見知らぬ者同士だった乗船客が顔を合わせる回数が増えていく毎に船上に於ける人間関係が多かれ少なかれ築き上げてくるのです。このような乗船客の動向を社会心理学的な視点で物事を判断する必要が出てきたのです。どのような生活環境を有した従業員が乗船客に接するのが良いのかなどが、船上での旅行体験を演出する上で、顧客満足度に繋がっていくのです。

ラグジュアリークラスの客船を好む客層を押さえるには、既存のクルーズ会社やそのクルーズ船客に対して、差別化・差異化を徹底して独自化を明確にして「WoW」(ワオ!)と驚かせる感動体験をゲストは求めているのです。

同業他社のラグジュアリー船社との差別化のためには何が必要か、それは将来の競争相手となる船社の分析を知ること。その上で、絞り込んだ客層にとって重要なものは何かを考え、新規会社としての既存会社との差異化・魅力度をいかにマーケットに伝えるかの答えを探求し、顧客に与えるインパクトが必要なのです。

プレミアムクラスから来た新しいラグジュアリークラスの客層は、アクティブな船上生活を望む傾向があります。

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外国船籍の客船で提供された日本人向け和定食

日本人でも毎日フランス料理が続けば飽きる

IT化と言われて久しい現代、今まで以上に進化したコンピューター・システムの導入や乗客の知的好奇心を満たすために、船上での多彩なカルチャー教室も重要です。

日本人のクルーズ乗船客にとっては非日常的と思われるのですが、反対にアメリカ人クルーズ船客にとって、船上に日常性にあふれたもので無ければないのです。アメリカ人乗船客にとって快適な環境を作り出すには、公用語は母国語である英語はもちろんのこと、通貨も両替不要のUSドル、食生活もハンバーガーやホットドッグも何時でも食べられること。つまり日常生活の延長をクルーズにも求められ、ゲストを魅了させるテーマなのです。

裏を返せば、非日常性は長続きしないのです。

毎日フランス料理のフルコースが1週間以上続くと飽きられるといった調査結果が出たのです。これは日本人がフォークとナイフを持ってフランス料理やイタリア料理など欧米人好みの食事が毎日続くとお茶漬けやそば、焼き魚定食などの日本食が恋しくなるのと同じ心理が働く傾向があります。

「飛鳥Ⅱ」や「にっぽん丸」「ぱしふぃっくびいなす」など、日本のクルーズ客船の食事メニューでも3ヶ月以上にも及ぶ世界一周クルーズの約80%は和食なのです。好んでラグジュアリークラスの客船に乗船するゲストの心を掴むには、非日常体験を味わいつつ、ライフスタイルは日常を忘れないこと。

そんな環境を作るよう心を砕いていくことが同業他社との差別化、顧客の方が勝手に選んでくれるクルーズ会社になることが最も大切な鍵となるのです。その対象とする客層に、最も近い販売網は全米の旅行代理店網のネットワークであり、それを味方に付ける必要でした。特に、クルーズ初心者にとって旅行会社が与える影響、つまり共存共栄する関係を持つことが必須です。

この様な差別化がマーケットに周知でき、就航後のプロダクトが期待通りならクルーズ業界の中でもラグジュアリー・マーケットでは旅行会社や乗船客の口コミを通してブランドの浸透は早いに違いないと確信していたのです。

幸いな事に、各種の調査、全米の旅行会社のネットワークやクルーズのリピーターとのコミュニケーションのおかげで、ラグジュアリー・クルーズの分野において、その先端を担っている当時の「ロイヤル・バイキング社」(現:バイキングクルーズライン)が 100%の支持を得ていないことを知ったのです。

ロイヤル・バイキング社は、このラグジュアリー・クルーズ業界で、一人勝ちの状態で有ったが、このクルーズ会社を所有するノルウェーの親会社3社が、彼らの本業である海運業での不振で、クルーズ業に対する意思の微妙な食い違いを生んでいた傾向があったのです。

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船上で繰り広げられるイベント

顧客と旅行会社のコミュニケーションが重要

それに加えてサービス自体が、マンネリ化し、顧客から飽きられ、 なおかつ他に競争がない事により、傲慢になりつつある傾向があった。これは競争相手がいない一つの独占であるが故の宿命であったのです。

リピーター比率が、高くなりすぎ、乗船客の平均年齢が 65 歳を超えるほど高齢化している現実でした。

そして時代の変化に対応できるような)新しい客を取り込む仕掛けに欠ける = 船上 における旅行商品開発力の陳腐化。同業他社への人材の流失により、プロダクトに貫かれていたシステムが変容し、適切なサービスに対する訴求力に欠けていたのです。

彼らの親会社3社としての将来のビジョンが、不明確な事に対して、不安を感じていた模様でした。

既に船隊も老朽化しているにも関わらず、次世代船隊像を描ききれないこと特に旅行会社の多くは失望していた様子でした。

当時プリンセス・クルーズ社によるロイヤル・プリンセス号の投入のニュースはロイヤル・バイキング社の船隊の老朽化を、さらに、印象づけるものであったのです。

当時、ノルウェーの親会社が、同じく同国資本である 「ノルウェージャン・クルーズライン社」から買収などを仕掛けられ、長期的な展望を開けるような環境でなかったのです。

これらの調査を通して、ラグジュアリークルーズのみならず、世の中のすべてにおける商品やサービスの初期ブランドの構築には以下の3つのことが重要と認識したのです。

1・旅行代理店や将来の船客に対する認知 が最重要であるが、今まだ形に見えるプロダクトがない状態では「誰が」このプロジェクトを推進しようとしているか、人材作戦を前面に出すこと。

2・ラグジュアリー・マーケットに出るには、既存のブランドとの差異化がどこまで出来るかがポイントであること。

3・マーケットとの接点においては、旅行代理店など販売網との共存共栄関係の構築が不可欠。

いずれにせよ、新規に始める会社が、成功するためには、このようなハードルを越え、プロダクトのブランド力を常に強化し、10年後以降にも、この業界で定評を得るような基礎を固める事が重要との判断したのです。

このようにして、ラグジュアリービジネスとはクルーズを通じて学ぶことが大きく、現在の富裕層インバウンドビジネスにも充分応用が可能だと確信し、現在に至るところです。

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