クリスタルクルーズの輝かしい幕開け

三菱重工業長崎造船所で建造が進められている新造船のデザインおよびネーミングも、新会社にとって大仕事でした。

この船名決定後は、次から次へと宣伝を打つ段取りが出来ていたので、こ の船名決定は、それら一連のマーケットへの浸透作 戦展開のキック・オフに当たる大きなステップ への第一歩という位置付けであったのです。

1988 年の 6 月、東京で三菱重工との間で新造船の正式調印式があった(6 月 10 日)。7 月には、新造船のデザインも固まりつつあった。ここで日本郵船としては、外から 見た本船のデザインが気に なってきた。まずはファンネル(煙突)のデザインが議論の的となったのです。

これは家の門構えと同じで、 その船がまず注目を集める箇所であったからです。東京本社は、日本郵船の「二引き」のマークをつ けたい、と主張した。これに抵抗したのはアメリカ側である。二引きのマークでは、アメリカマー ケットに対するインパクトに欠けるし、何のために「ロゴ・マーク」を決めたのかと言った議論でした。

対象顧客であるクリスタルクルーズゲストにも、クリスタル・クルーズのアイデンティ ティとしては 「ミラード・シーホース」との関係がよくわからず、混乱する。やはりここは、クリ スタル・クルーズのシンボルである「ミラード・シーホース」とすべきだと言う。結局、アメリカ側の意見が通ったのです。
ファンネルに付けるマークについては、東京側が折れたかたちになったが、日本郵船の船であることを明確にするために二引きの線を船体に入れたい、という強い要請には変わりがなかったのです。

そこで、船首のところにブイマークの NYK マークを入れ、船首部のマストに二引きのマークが入るこ とで決着を見た。

その前後、1988 年 7 月は、日本側に客船準備室が設営され、一方アメリカにおい ても、クリスタ ル・クルーズ会社がセンチュリー・シティの FOX・PLAZA ビル 2 階設立。 いよいよクリスタル・クルーズ第一船のネーミングでした。

1988 年 10 月、全米 1905 社の旅行代理店が参加した「ネーム・ザ・シップ(Name The Ship)」コン テストが展開された。

740 ものネーミング案がクリスタル・クルーズに寄せられたのです。

方針として船 名は、各種コンテストや調査を経てラグジュアリー・クルーズ客船としてのイメージに富み、クル ーズ船客やマーケットでも受け入れやすい船名の候補を選び、最終的には日本郵船で決めてもらうことを決定。

この事業が20 年先のベビーブーマー層を想定した長期的なプロジェクトとの認識のもと、将来の三隻体制を念頭に入れていたので、第一船だけでな く 3 つの パッケージとした下記 2 案に絞り込まれ、下記の両案が残ったのです。

A 案 クリスタル・ホライズン クリスタル・リフレクション クリスタル・エクサレンス

B 案 クリスタル・ハーモニー クリスタル・セレニティ クリスタル・ラプソディー

他に、ブリーズとかエレガンス、メロディ、ドーンなども候補線上にあがったが、それぞれ日米の感覚の差やイメージで調整が行われました。

ミストもあったが、当時の 日本政界を揺るがすスキャンダルの「黒い霧」を思い出させるとして、これは却下された。

「クリスタル・クルーズとしては、独創性・創造性

・妥当性、その言葉の持つラグジュアリー商品の優雅さなどを念頭に三隻の名前の適合性を重視した。

とりわけ、独創性にはこだわりを持たせたかったのです。

この業界でポピュラーなサン、 スカイ、シー などは回避したい。

適合性では名前の響きなどを選考ポイントとして、 三隻とも末尾が Y で終わる B 案が良いのではという意見が大勢を占める。

こうして 1989 年 1 月 15 日、新造船の名前が「クリスタル・ハーモニー」 

この船名決定に際して当時の「日本海事新聞」は下記のようなコメントを載せている。

—郵船の大型クルーザー船名決まる。 光り輝く太平洋の世紀をイメージ CRYSTAL HARMONY ・ ・・・・・宮岡社長は次の通り語った。
一、 船名の選定に当たっては日本のお客さんも、アメリカのお客さんもわかりやすく、覚えや すい名前である事を第一に考えた。次の本船が最新鋭の設備を持ち、欧米の一流デザイナーに よるエレガントな設備、ハード面が良いのと同時に、乗組員 のサービスつまりソフト面でも 調和(ハーモニー)がとれると。日本、台湾、韓国、中国など太平洋沿岸諸国のお客さんと船上 で忘れがたい友情を融和(ハーモニー) を導くものとした。
ー.またハーモニーの NY で終わる語尾は外国人にとって語感が良いらしい。それに第2、第3船をシリーズ建造する場合、たとえばシンフォニー、メロディなどに繋がることを考慮に入れた。米国 の代理店、本社でも船名を募集し、ハーモニーに多数の応募が寄せられた。第一位ではなかったが 最終的に私が選定した。

1、2隻目の建造は、第一船の実績を見た上で決めたいとのこと。世界の客船経営を一隻で やっている所は、ドイツのハパグ・ロイド社しかなく、当面、最低二隻は必要と感じている。それにロサンゼルスに60 人、日本約10人いるクルーズ客船事業の要員規模からみれ ば、2〜3隻までの運航が可能で、経費が安くなる。

帰りの航空運賃は船会社で負担するため、数が多くなれば航空会社との航空運賃の交渉もしやすくなろのです。

1989 年 1 月 「ロイヤル・バイキング・サン」のサンフランシスコ入港
クリスタル・クルーズの事業の段取りも、着実に前進してきた。当時の記録を紐解いてみると、当時のラグジュアリー・クルーズの代名詞であった ロイヤル・バキング社の最新鋭船 ロイヤル・バイキング・サンがワールド・クルーズの基点港サンフランシスコに入港。

この機会を捉え,クリスタル・クルーズの チェックリストを元に、彼らのハード・ウエアとの徹底的 な比較検証を行ったのです。

その後、1 月 10 日には、フロリダ、オーランドで、CLIA の会議、1 月 16 日には購買関連の新会社設立に関しては、パートナー明治屋との関係やクリスタル・クルーズ内 の組織、購買部門との仕事の振り分けなどを議論したのです。

1 月 19〜20 日は、翌年 7 月に予定されるクリスタル・ハーモニーのロサンゼルスでの命名式のイ ベントの為に、どの PR 会社と提携をするかの内部的なプレゼンテーションに費やされていました。

第一船 「クリスタル・ハーモニー」予約開始
この船名決定から半月後にクリスタル・ハーモニーのクルーズ予約受付が始まりました。

当日、予約係は東海岸との時差の関係で午前 7 時から 業務を開始した。こ の日、午後 5 時までの間に全米の旅行代理店から約 250 件の電話があった。

しかしこの段階ではまだ料金レベルなどに関して最終的なものではなく、仮予約てという段階でした。

彼らは、料 金が未公表にも拘らず、最上層階のペントハウスから仮予約を始めた。特に、最上の部屋、クリスタル・ペントハウスは、翌日全額支払うと言う乗船客で即完売となったのです。

仮予約の電話は、いままでのクリスタル・クルーズのブランド構築活動などを通して、 どのようにマーケットが反応するかを測る指針として、きわめて 重要なものであった。

彼らの予約 の客層が、今までどのクルーズ会社に乗船しているか、あるいはクルーズ船客の乗船経験の有無などが、非常に重要なポイントでした。

また、アメリカのどの地域からの予約かも、今後の集客 活動にとって大きな意 味を持っていた。かなりの予約が、今までロイヤル・バイキング社の乗船経 験者で有ったが、一部には、シザーズ・パレスのカジノがあることで予約して来た初めてのゲストもいました。

プリンセス・クルーズ社の上層階のゲストも多かった様子です。

特にアラスカクル ーズの売れ行きは当初の予想以上の反応だったのです。これらの傾向を通して上層階の部屋から売れていくということは、クリスタル・クルーズが狙いを定めた、富裕層が反応しているということが 判り、今までのマーケッティングやセールス戦略の正しさを示しており幹部らは安堵したのです。

クルーズを予約しないまでも、多くの質問もあった。これらの質問は、今後のマー ケッティング やセールス活動の為に、極め重要なポイントを突いていた。早速マー ケットに正確な認識を提示す ることにより、今後このような質問を回避するようなコミュ ニケーション戦術をとり、実情を周 知徹底することにした。当時の主な質問は下記のような点で あった。

・ クリスタル・クルーズのホーム・オフィス、船上における主要スタッフは誰か? ・主要ターゲットマーケットは?

・ クリスタル・クルーズと親会社の関係は?

・ 旅行代理店に対する基本方針/インセンティブなどはどうなっているのか?

・ 本船のハードウェアは? ホテルは誰が面倒を見るのか?

・ 船長はどこの国の出身者か? 主要乗組員構成は?

・ ダイニングスタッフは?

・ メインダイニングルームでは、ワン・シーテングかツー・シーテングか?

・ スペシャリティ・レストランはどう運用するのか?

・ 料金はいくらなのか?

・パンフレットを早くもらいたい(これは料金を最終的に決めていないので、まだ作れない。

翌日、全米のセールスの幹部と各地のセールス・スタッフ候補生を、センチュリー・ シティのレ ストラン Jimmy’s に集め編成会議を開催し、今後のセールスの戦略に関して詳細を詰めた。初日の 好反応にも満足せず、私たちは、クリスタル・クルー ズのプロモーションを推し進めるのです。

とくに力 点を置いたのはメディア対策であった。「ニューヨーク・タイムス」「ロサンゼルス・タイムス」 など全国紙のみならず、とりわけクルーズ客層に密着した、全国紙より週末の団らんで話題になりやすい地方紙に重点的に焦点を当て、積極的に「Crystal Age Begins」(クリスタル・エイジ・ビギンズ、クリスタル時代の幕開け)を宣伝したのです。

まだクルーズ客船がない状態では、その船上の滞在環境を作る人材を前面 に出し、それも今までの幹部のみならず、セールスの核となる現場のスタッフを前面に出し、クリ スタル・ クルーズを支える人材の露出でマーケットの信頼を得る戦略でした。

さらに、フリーランス記者の積極的な活用も、戦略の一つである。

クリスタル・ハーモニー建造時から、このプロジェクト参画者としての立場で、進捗状況などを頻繁に記事にしてもらい、そのネットワークで配信。このようなメディア反応を、旅行代理店とのネットワーク作 りにおいては数値管理し、効果を挙げるという方法をとったのです。

当時の状況を、平成元年 2 月 15 日「海事プレス」の報道は、下記のように伝えている。

1日だけで問合せ1千件が殺到。
郵船の新造客船人気は予想以上。料金は12段階平均370ドルに一

日本郵船の CRYSTAL CRUISES(本社:米国カリフォルニア州センチュリー・シテイ)は先週 6 日、米国 で、アラスカ・クルーズ 12 日間のブッキング受けを開始した。

新造船クリスタル・ハーモニー(乗客定員 960 人)に対する関心は、予想以上に高 く 「一日だけで 1 千件に上る問合せが殺到した」という。アラスカ・ク ルーズサンフランシスコ発着の料金は航空 料金込みで一人一日310〜1,000ドル、平均370ドル。 人気の高さから見て、年内 に 6〜7 割の予約を確保できる見込み。

“Crystal Age Begins”

ロサンゼルスでは、この船名発表と予約開始に際して “Crystal Age Begins” を合 言葉に、各種 のパンフレット、ビデオ・プロモーションを一斉に展開し、その他、「プ レースメイントアドバー タイズメイント」などの手法も駆使した。クルーズ船客や マーケットに対して、クリスタル・クル ーズの事業企画が、着々と進んでいることを発信した。クルーズ業界およびクルーズ船客への情報 提供には、イメージのみならず、商品の中身を知って貰うべく「インフォマーシャル」を多用した。 プロダクト内容を熟知してもらい、既成クルーズ客船とのデフェレンシェーション(差別化) に活用 したのである。多彩な宣伝手法の活用で、船上における滞在環境の認知度を高めることとした。
また、2 月 5 日には、前田さんが、ロサンゼルスに入り、翌日は河村さんが合流して、ウエストウ ッドのリージェンシー・クラブ(Regency Club)で「クリスタル・クルーズ」プロジェクトの進捗状 況の検証と今後の対応、特に、船上の組織及び配船問題、 長崎におけるクリスタル・ハーモニーの 建造の段取りや処女航海などの段取りに時間が割かれた。この頃長崎では、クリスタル・ハーモニ ーのメイン・エントランス、パームコート等のモックアップが完成、利便性や居住性など、チェックされ、12月に完 成していたクリスタルペントハウスなどの客室では、三菱重工 業の社員カップルによる試験滞在などをしている頃であった。

1989 年 2 月 カイ・ユルセン船長任命
「クリスタル・ハーモニー」船長として、サガ・フィヨルド号などに乗船し、その後アドミラル・ クルーズ社で、現役の船長であったカイ・ユルセン。副船長として、ロイヤル・バイキング社から、 レイドルフ・マーレン、機関長ジョン・エドバーグを 引き抜き、任命し発表した。当時はまだ、こ の新造船の最高責任者は、日本人船長 が中心となって運航すべしとの意向も強く、ロイヤル・バイ キング社のノルウェー色を薄め、政治的な判断も働いた。

一般的に、クルーズ客船の船長は運航部門の最高責任者であると同時に、船上での接客に最も忙しいという役割でした。

自薦他薦を含め、ロイヤル・バイキング社の首席船長やこの業界の主要な船長と直接面接し、ある時は、間接的ににコンタクトを取り、アメリカ側としては、当初はアメリカ人ゲストに、好評なノルウェー人船長で、ロイヤル・バイキングの首席船長、オーラ・ハーシャイム 船長か、次席船長レイド ルフ・マーレン船長を最優先候補としていたのです。

最終的に、同じ北欧系であるがロイヤル・バイキング社ではなく、サガ・フィヨルド 号などを運航している NAC社などの船長を続け、当時は、アドミラル・クルーズ 社の船長を務めていたカイ・ユルセン船長で決定。

この様にして決まった船長カイ・ユルセンのほか、副船長のレイドルフ・マーレン、 機関長のジョン・エドバーグ等は、6 月 1 日には長崎の造船所に派遣されました。

現場での調整と機器などに対する慣れが重要な仕事であったので、運航関連以外のホテル部門の人選も行っていたのです。

長崎の造船所では、4 月 14 日クリスタル・ハーモニーの船体にコインをはめ込むキール・ コインセレモニ ーが開催された。

この儀式はヨーロッパに於ける新造船に対する祈願と祝福を兼ねて行われ、船体の竜骨部(キール)にコインを溶接するものでした。

船上ホテル備品及び食材購買部門と「MY NYK International」

3 月 3 日には、ロサンゼルスに「MY NYK International」が設立されました。日本郵船 51%、明治屋 49% の株式を保有する船食納入会社。

このプロジェクト初期の構想で、この部門に関しては、日本側として「環太平洋クルーズ」構想の下に、シンガポールの新会社に購買関連業務を一括して任せ るとの発想だったのです。

日本側では戦前の客船時代の購買部資金の流れ複雑さと管理システムを認識していたので、 クリスタル・クルーズ組織内に購買部を設ける事で、計数管理が不透明になり、担当者の予期せぬ事故などに巻き込まれかねないと主張していたのです。

クリスタル・クルーズとしては、それでは運航業務をアメリカで行い、ホテル部門の運営も、アメリカが主体的にやるにも拘らず、購買部門だけを運航業務本体からはなれたシンガポールで行うのでは機能しないこと。

また大きな予算の動きに関しては現在のクル ーズ客船におけるホテル購買システムは、計数的な管理が進んでおり、購入と消費がハッキ リと判るシステムの構築が出来るとして、このシンガポール購買事務所案には反対意見を申し出。 日本郵船と明治屋との提携で、MY NYK 社の設立で対応しようとしたのです。

1989年4月10日、ロドニーとロサンゼルスでのハーモニーの命名式の段取 り担当のダーレイン・パパリーニなどが、三本さん(副社長)等と面談の席上も、これが話題になっ たようであった。

この案件は、その 2 カ月後に起こる世界的事変によって解決することとなる。

コンピューター・システムによる陸上での運営管理・船上での諸処理などの一括システムや寄港地手配などの構築

この頃、新会社として、独自の予約システムや、船上でのホテルシステムを構築することを決め ていたコンピュータ関係のシステム・プログラムが完成しつつあった。

(1) 陸上の管理部門のシステム
(2) 船上での運航・ホテル営業部門のシステム
(3) 世界各地から調達する数万点に及ぶ船用品や将来の食材などの 調達するシステム
(4) 旅行代理店などとの予約システム、全て自前で構築すべく計画していた。

また、集客したゲストのロジステックスの面で最も重要なアメリカの航空会社とのボリュ ームに基づく、特別割引契約などの取り決め交渉が続けられていたが、これらも目処が立ち役員会で承認された。

クルーズ客船には寄港地手配が付いて廻るが、そのそれぞれの寄港地における諸 手配の為に港湾代理店やクルーズ船客の観光などを手配するランド・オペレーターと言うツアー会社の選定も重要な仕事であった。

処女航海の寄港地、アラスカは、ホーランド・アメリカ社系とプリンセス・ク ルーズ社系のランド・オペレーターが独占していた。彼らの手配する運転手やヘリコプター、水上機のパイロットの多くは、夏のアラスカ、秋・冬季のカリブ海で、ツアーの仕事を支えている渡り 鳥スタッフ であった。

このため、ランド・オペレーターも人的手配に制約があり、寡占状 態でもあったのでどうしても割高にならざるを得なかったのです。

アラスカの州政府は、クルーズ客船 の大型化に対して危惧を示していた。

大型クルーズ客船で観光客が大入すると、アラスカの自然が守れない。

もし、アラスカ観光をしたいと言うのであれば、入頭税を設けるというも のであった。

当時のアラスカ州選出のボーランド系実力上院議員、フランク・マルコウスキーなど にクルーズ会社として陳情攻勢も激しくなった。

この様な時に、アラスカのアンカレジの南、プリンス・ウイリアムズ・サウンドで、 タンカー「エクソン・バルデス」による未曾有の石油流出事故が発生し(1989 年 3 月 24 日) クルーズ客船の安全性にまで話が飛び出したのです。

アラスカで最も氷河の崩落の激しくクルーズのハイライトと言われていたグレシア・ベイに寄るクルーズ客船に過去の配船実績を元に、寄港制限をつ けると言い出したのもこの頃でした。

クリスタル・クルーズの様な新生の会社にとっては、厳しい制限でした。

処女航海のアメリカ人クルーズ船客は、最上のクルーズ会社であれば、当然、このグレシア・ベ イに寄るものと思い込んでいる。ここへの寄港権は、彼らの第一印象や評価にも影響するのです。

そこで、 関係先と調整する目的で、ロビーイストを活用することとした。彼らを通して、過去の実績はあるものの、この年には配船をしないキュナード社の権利を譲り受ける事を工作した。

幸い、年末まで に取得が確認でき、クリスタル・ハーモニーの就航に間に合わせる事が出来た。

1989 年 5 月「客船レジャーの情報誌」創刊号と「クルーズ元年」

日本で「クルーズ』(隔月刊海事プレス社)の創刊号が発行された。その『クルーズ」5 月号で「客船時代、再び」と銘打って「クリスタル・ハーモニー」の特集を組んでいる。その記事によると、 ー「クリスタル・ハーモニー」は日本最大でかつ最も長い歴史を持つ海運会社・日本郵船がこれも 日本最大で最古の歴史を持つ造船所・三菱重工長崎造船所で建造している。

日本郵船は戦前 「浅間丸」「龍田丸」「鎌倉丸」をはじめ、世界各地に豪華客船を配船戦後もし ばらくは、いま横浜に係留している「氷川丸」で船客を運んでいたのです。

その会社が昨年アメリカに「クリスタル・クルーズ」と言う客船会社を設立し、客船の発起から就航まで 3 年以上の準備期間をかけて来年 6 月に新時代の豪華船「クリスタル/ハーモニー」を登場させようとしている。

東京サンシャイン60より1メートル長い241 メートルの長さを持ち、普通の外国客船であれば、 1800 人も乗船できる大きさなのにこの船では乗客定員をわずか 960 人に抑えている。

それだけぜいたくな造りになっている。

「太平洋文化の架け橋に」がキャッチフレーズの「クリ スタル・ハーモニー」。

春は 日本・韓国・中国、夏はアラスカ、秋はパナマ運河経由カリブ海、冬 は南太平洋と、太平洋沿岸をそれぞれ最も美しい時期に訪れる。

処女航海は来年 7 月のホノルルクルーズでした。

クリスタル・クルーズ以外にも、日本の貨物船会社が、独自のクルーズ客船運営構想を持って華々 しく、花開こうとしている先賭けでもあった。この年の日本はクルーズ元年と言われクルーズ 客船に対して熱い期待が集まっている時でもあっ た。

ホテル部門幹部の採用開始

1988 年年末、三菱重工業の作業も順調で、パームコートなどのモックアップも完成し長崎での船 上における施設や設備に対して、多方面からの検討を加えている頃、 ロサンゼルスでは、幹部船員や乗組員の採用が本格化してきたのです。

1989 年 2 月 3 日には、船上における商品開発と採用戦略(船上での滞在環境)の会議を行った。

適材適所の人材を求めて:ノルウェーやオーストリアの古城へ

創業幹部らは、ホテル部門の採用幹部と船上でのスタッフを求めて、オーストリアのザルツブルグに飛んだ。目的はクルーズ関連のホテル経営を専門にしている経営者に会うためでした。

ロイヤル・バイキング社もオーストリア人のマネージメントスタッフをホテル・オペレーションの核になるポストで、採用している。

オース トリアは、観光立国であり、国内に散らばる古城や山小屋 の地下を改装して、ホテ ル学校を兼営している所が多い。

当時は9 校あり、その中でもシ ャコーシが経営するホテル・マネージメント会社が、ロイヤル・バイキング社の優秀な人材の供給源になっていたのだ。

当時、シャコーシは、海上でのホテル要員 250 人、陸上でのホテル要員500 名を抱えていたが、 彼らの多くは、オーストリアのレストランやホテルで実習生としての経験を積んだ 即戦力部隊でした。

このオーストリア・システム の強みは、料理なども著名なレストラン等の 所謂「徒弟制度」で技術を習得するのではなく、このマネージメント会社のマニュアルに従ったシステムで教育されていた事でした。

ハプスブルク家の伝統の味など、いろいろなところで継承されていました。

ここの主力スタッフを、クリスタルクルーズ社の新造船ホテル部門や料理部門に勧誘する事に成功したのです。

食に関しては、彼らの助けがあれば、少なくともロイヤル・バイキング社のレベルは維持できると予測。その後も、この人脈が、クリスタル・クルー ズの船上でのダイニングのシェフとして活躍くれたのです。

日本料理レストラン「京都」の挑戦……「生の魚には、虫がいる?」

クリスタル・クルーズの和食レストランの導入というチャレンジは、この頃も続けられていたのです。

クリ スタル・ハーモニー就航前1989年、 NRS (National Restaurant Assn)の人気度調査によるとア メリカにおけるエスニック料理とは、ベスト 3 が 1 位イタリアン 36%、2位中華 23%、3位メキシコ20% 以下の4位ギリシャ、5 位ラテンアメリカ、6 位スペイン、7 位フレンチ、8 位カリビアンのあとに日本料理であり、「日本食」は、一般のアメリカ人というより日系人を中心としたマーケット に過ぎなかったのです。

ちなみに上位 3 種は全体の 8 割を占めていることからも、そのマーケットの小ささが推測されたのです。

アメリカにおける日本料理といえば魚料理・鉄板焼き・しゃぶしゃぶ・懐石料理な どがニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコなど一部の日系人を中心とした社会では受け 入れられていた。全米規模でみると、日本食は、マニアックなジャンルでした。

特に日本の食生活から最も遠いのが、ラグジュアリー・クルーズのゲストであり、大きな比重を占めるユダヤ系アメリカ人であり、食生活に厳しい規律が求められる彼らにはまったく受け入れられていなかったんおでした。

第一号船、クリスタル・ハーモニー建造が決まった後も船上に設けられる予定の和食レストランをどのように運営するかは大きな挑戦でした。日本郵船の見解は世界最高級の客船だから、当然和食レストランも、東京都心の超高級和食レストランと同等のものを作るというポリシーがあったのです。

クリスタル・クルーズは試行錯誤で、 当時のクルーズ業界では画期的な日本料理レストラン「京都」を設けることとなったのです。

しかし、この要請には、マーケットに無縁な新しい日本食を、日本食に最も遠いものです。

クルーズの乗船客に食させると言う難題が付き纏っていたのです。この実現には非常に多くの障害が横たわっていました。

当時は、アメリカでは寿司が健康食であるとの報道の一方で、生の魚には虫がいるだとか、素手で寿司を握るのは不潔ゆえビニールの手袋をすることなど、生の魚やそれを料理することに対するネガティブな見方か非常に多かったのです。

ロサンゼルスタイムズによると、生の魚を食べる寿司は不健康である等といった記事も掲載していた。

アメリカ人、特に主要客層で有ったユダヤ系のクルー ズ船客 にとって、日本食の食材への無知識は酷く、塩辛は「虫」だと言い出す人もいたちなみに、今のア メリカでは、日本人が描く”なま”寿司ではなく、アメリカ人に食べやすい巻物を中心とした寿司がブームなのです。

当時は、連邦衛生局(USPH)も、クリスタル・クルーズが、日本食を出すことに 対して懸念をしていたのです。また、日本食の分布も、上述のようにニューヨーク・ロサンゼルス・サンフランシスコな ど限られた大都会偏重が顕著であった。また、「すいび」レストランでのダグラス・ワードのアド バイスにもあったように鉄板焼きやしゃぶしゃぶ・すき焼きはクルーズ客船では問題が多く、懐石料理も困難が大きかったのです。

この様な中で、サンフランシスコの日系ホテルの中にある日本食レストランを指揮していた酒井君を引き抜き、限られた条件の中で、日本食のメニューを考えてもらう事とした。

彼のメニュー作成の過程で、食材のみならず、食器などに対する手配の問題が発生した。

日本食には、多彩な食器 が必要なのであった。

それを船上の 限られたスタッフで如何に、洗浄し管理するか新しい問題も生 じた(ここで重要な事は、酒井君の働いていたレストランの客は、ある程度の日本食を試食経験のお 客が対象であった。船上の環境とは、大きな違いが有った。

日本食の問題点とは

上述のように、新造船には世界に冠たる豪華クルーズ客船を造るのだから、日本の食文化を世界 に広める為にも、豪華な料亭のような料理を提供すべしと言う意見であった。

生魚に疎いアメリカ人にはすしが、生の魚を扱う、その匂いに対する嫌悪感や内臓に虫が居るとか、今では想像も付かないような見方が溢れていたのです。

(1) 『割烹懐石料理』 東京が言う懐石料理は、非常に難しい。レストランを選ぶ動機を観察すると、日本では、割烹懐石料理の多くは、食材の多様さと料理の技量で作られておりその屋号とかシェフの名前で、レ ストランを選び、料理は彼らにお任せの料理であり、 店のブランドとシェフの技量を信頼して、 口にしているものである。一方、アメリカでは、日本食の食材に疎いアメリカ人にとっては、料理の中身が分からなく、好まれないし、醤油味に対する拒否反応やアレルギーもあったのです

また、 固苦しいフォーマリティが感じられると言う。日本食を初めて口にするアメリカ人の多くは、食材が気になり「これは何」との質問攻めでこれに答えるシェフは、一般的に、英語力不足、また、ウ ェイターは、日本食を経験したことのないヨーロッパやフィリピン人で、料理とクルーズ船客のコ ミュニケーションが成立しないのです。

宗教的な戒律の厳しいユダヤ人も含め、イメージの浮かばない食 材を基に食べる習慣が少ない人達にお任せで料理の中身が判り辛い料理を、クルーズゲストに、 喜んで気楽に食べても らうこと事は至難の業でした。

徒弟制度的な料理法習得の為、シェフが代われば、料理の作法が変わり、味付けも異なるのでは、 クルーズ船客からの評価も定着しない。食材の調達方法も、陸上でのオペレーションと全く異なり難問であった。

(2) 「アメリカ人のレストラン観」 アメリカ人の「レストランに対する期待/見方」も、壁となって立ちはだかっていた。アメリカ人は、レストランでの食事の時間を大事にし、団欒や社交の場として捉えており、自分たちの気分で、 長居したがる傾向があります。最低でも 2 時間は掛けるのです。

その点、和食のレストランでは、コースもの のメニューも限定されがちで、酒などの飲み物などで場を持たせるしかない。
日本の料理の中で、割烹などや大型料亭などの料理以外では、「しゃぶしゃぶ」「すき焼き」「鉄板焼」なども考えられるが、これらは、どちらかと言うと家庭料理的で、 基本的にセルフ・サービス的でもある。

鉄板焼きやしゃぶしゃぶなどで 2〜3 時間の場を持たせるのは非常に難しいのです。
日本で生活しているなじみの人たちには、それでも良いが、日本料理に疎いアメリカ人には、日本のこ のような環境と、まったく無縁な人たちが多かったのです。

匂いにも厳しい、焼き物も匂いが強いし、時 にはアメリカ人になじみの薄く、匂いが嫌われているしょう油なども使用しなければならない し、クルーズ船客のほとんどが和食を口にしたことがない人たちである。

活きた魚に、しょう油を つけて食べさせるなどといったことはできるはずもなかっ た。しょうゆの味や匂いが耐えられない と言うアメリカ人も多かった。
(3) サービス運営面での難しさ
80 年代の当時は、鉄板焼き料理が流行していたが、ブームは下降期でその代表格 「ベニハナ」等も、飽きられ大衆路線化に舵を切っていた。

特に、セルフ・サービス的で華やかさが出づらい。フォーマルに不向きに加え、高級イメージも低く、相席の可否・席に詰め込まれるスケジュールが、 シェフ主導で、食事の時間に制約があり追われる感じなどの不満もあったのです。

タキシードやドレ スに匂いがつき、タレものも多くテーブル・クロスが、汚れや臭気が付く、又、船上であるが故に 換気に注意、最大の注意を払わねばならぬ。鉄板焼きには、サービス品目としては、ビーフ、照り焼きなど、単品指向でメニューに広がりを生み辛く弁当箱的でもあったのです。

肉料理主体の鉄板焼き、すき焼、しゃぶしゃぶや、てんぷら料理には、タキシードとかイブニン グドレスには、不釣合いで、航海中の船での料理には、危険も伴い、不似合いであった。シャブシ ャブなどは、これは、料理を経験した事のある人にしか、上手く運用できないし、これもフォーマ ルに向かない「匂い」と言う大敵が付いて回るのです。

しゃぶしゃぶやすき焼きには、基本的にセルフサービス的なサービス形態でありサービスをする外国人サーバーにはなじみの無いサービス形態でした。

アメリカでは、バーベキューなど一部の食事を除いて、レストラ ンで は、サービスをする人、サービスをされる顧客の立場の違いが明確でした。

これらに加え、食材調達などの難しさ(世界各地での調達能力)も議論となった。クルーズの航路 によって、どのように和食の食材を調達するか。それに加え、サービスをする外国人スタッフのそ の食材に対する知識程度と、周知する際、その説明 の難しさも問題であった。アメリカで成功して いる多くの日本料理屋には、しっかりした、料理の食材を(英語で)説明できるウェイターやウェイトレスがいます。

アメリカでは、料理はエンターテイメントであり、食べ物の説明も重要な仕掛けの 一部なのです。

エスニックとしての日本食に対する経験がない外国人サーバーのサービスをする支援体制にも問題があると思われた。船上でサービスする(イタリア人やフィリピン人 は日本食を一度も食べた事のない人たちでした。


日本食の食材に対する知識レベルを(特に懐石料理)を如何にトレーニングするか、議論されたが、 妙案は無かった。

例えば、酒はワインとは異なり、長くは保管できないし、船側でサービスする外 国人には、欧米の知識はないこともあり、日本人客からは「酢」化した酒のコンプレインを受ける事になる恐れもあったのです。

日本食のサービス形態とアメリカ人の馴染みのアベタイザー(前菜)からメ イン・コースへの区別が不透明で、サービスの仕方に問題が出る可能性がある。味噌汁がスープ と思い、アペタイザーで出てきたり、遺物を、サラダと思い込んだり、生活習慣も違い、緑茶を頼むとセイロンの紅茶のようにスプーンと砂糖とミルクを持ってくる。


和食のメニュー構成においても困難を極めたのです。焼き物も匂いが強いし、時には醤油等も使用しなければならないので、クルーズ乗船客のほとんどが、和食を食べた事が無い人達なので活きた魚を食べさせるなどと言った事は難事でした。

多くのクルーズゲストは、宗教的な理由で自分が納得できないものや好みで 魚貝類や得体の知れないものを食べる事が出来なかったのです。

メニューは、加熱をした物を中心とした日本食のメニューを用意することにしたが、限られた船内の調理スペースでもあり、シェフにとっては厳しい料理環境であった。

アメリカのレストランでは、一般的に、アペタイザーは、他の人と同時にサービスされるが、船上のスタッフでは、和食の場合、料理が遅いと一品料理がバラバラ 出てきて、同じタイミングでは出てこないことも多かったのです。

その結果、出来るだけ前菜とメインコースに、サービスをする形態にせ ざるを得ないかったのです。シェフの試作品であった炒め物は、食材が不透明で米は副食だと言い主食ではないと考えているのです。

寿司はアペタイザーで主食ではないとか、味噌汁はスープゆえ最初に出すべきであるなどの見方の違いもあり、その運営に関しては多くの課題を抱えていた。

(4) 船上勤務の人材確保と日本的料理手法の難しさ、シェフの雇い入れも問題でした。日本料理には、前段階の準備が必要でそのためにスタッフも
十分居なければならず、一般的にロサンゼルスの陸上のレストラ ンで働くより、厳しい環境で、待遇も競争力がないとすれば、良いスタッフを探す事は待遇も含め難しい仕事です。

日本食 の料理手法に、手間が掛かる事も、レストラン運営を難しくしたが、それに加え料理の職人が、多 くは徒弟制度で料理の手法が、人によって異なる事や食材の調達などが障害として横たわったのです。

独自の作業流儀があったり、味付けが異なったりしている現実と、懐石料理の専門家に寿司やうどんを作ることを勧めるのはかなりの勇気が必要であった。

作業をする仕事場も制限があり、当初望んだような、高級料理を提供するような設備や舞台裏になっていなかった。それに加えて、職場陸上とは大きく異なる船上での勤務体制も大きな問題であった。

雇い入れも労働条件などから、難しいことは明らかで、また、アメリカ人やヨーロッ パ人では、言葉の問題もあるのです。

一方、表向きは日本人でも、日系米人は、日本の事も判らぬことも多く、料理法の異なる船上料理場での厳しい挑戦でした。

クリスタル・クルーズ独自の「プロダクションショー」の準備

クルーズ客船で旅行中、船上での楽しみの一つに、ロマンスの中心になる夕食後の大劇場におけるプロダクション・ショー。

食後の雰囲気を盛り上げ、船上での滞在経験をより快適に、濃 密にする舞台装置、パフォーミング・アートです。

クリスタル・クルーズは、既存のクルーズ会社とは異なり、自前のプロダクション・ショーを提供する事を決めたのです。

クルーズ客船社によっては、このようなショーを専門とする会社に外注で依頼するケースも多いが、クリスタル・クルーズの場合、このパフォーミング・アートは、演じる者と観客に一体感が重要であり、そこに微妙なケミス ト リー効果があり、プロジェクトの具体化と共に自前制作を目指した。

制作監督・ 振り付師・コン ピュータ制作担当・舞台監督をはじめ男女歌手・男女歌手兼ダンサーおよび専属バンド等を入れると、乗り出し時、総勢役 20 人、3隻体制になれば、80 人前後の規模の大所帯のプロダクションチームが出来、この運営や各制作にはかなりの費用と日数を要することとなるのです。

男女歌手やダンサー等は、一隻に 2 セット(二隻の場合、約 3 セット)分(船上 のキャストとして は男性、女性それぞれのリード・シンガーと 8 人の踊り手 + 歌手 の 10 人構成で更に、2 人が休暇の体制が必要で、乗船していない歌手/ダンサーは、ロサンゼルス・パサデナのスタジオにおいて、 毎日練習漬けでリハーサル、仮に船上の歌手あるいはダンサーに怪我など何か緊急事態が生じた場 合、いつでも補充が効くようなバックアップ体制を作る必要かでした。

歌手やダンサーは、もちろんプロとして生計を立てており(一般的に 18 週間契約となっている)。 ニューヨーク・ロサンゼルス・ラスベガス・ロンドン・シドニー等でオーデションを行い、採用の 可否を決めるが、一回のオーデションに大体 100〜200 人ぐらいの応募者があり、その中から 1 人か 2 人の採用となるのです。

給与体系(平均): ヘッドラインシンガー :1,500 ドル/週 バックグランドダンサー:300〜800 ドル/ 週。

通常 45〜60 分間のプログラムを制作するのに約 4〜6 か月を要し、これ以外に、衣装合わせや衣裳などの手配に、更に 2〜3 ヶ月を要することになるのです。

外注のプロダクション・ショーの場合 1 か月 もあれば、クルーズ客船会社として最高レベルの個性的なショーにするためには自前が望ましい判断があったのです。

最近はクルーズ客船が急激に増えている事もあり、マイアミを中心として、多くの契約歌手とか踊り子をそろえ外注専門のプロダクションショー会社が、取り仕切ってい るケースが多いのです。

ラスベガスとの提携で、大掛りなプロダクッションショーも増えています。

一つのショーに要する費用は、オリジナル作品の場合、著作権・制作費・衣装代などを含めて約2億円の予算が必要でした。

特にコンピュータ仕掛けの制作には、かなりのハイテク設備を投入 する事となる。また、コスチュームのデザイ ンも振り付師や衣裳デザイナーの重要な仕事でした。

衣装デザイナーは、ロサンゼルスでの映画や舞台の専門デザイナー会社と提携し、デザイン自体の素描から繊維素材の選別などもふくめ、振り付師との協業が基本となっているのです。

衣装は、観客か らの視覚的のみならず機能面においても着替えが簡単に出来るような特殊仕上げとなってい る。衣裳は見るだけにある訳ではなく、演技者にとって使い勝手がよいものでなければならない。 頭に乗せるカツラが重すぎないか、踊っている最中に落ちはしないか、カツラを支える紐が歌手の 首を締め付けていないか等にも十分な配慮が必要だ。

素材も高級繊維を多量に使っていることもあり、例えばスパンコールを使った 1 着百万円以上の 衣裳もありました。

衣裳の発注先も、アメリカで作ったり、あるいは中国に発注したりと多岐に渡りました。

これがダンサー分必要になるわけで当然衣裳コストが掛かる。通常 1 ステージ、5〜6 シーン位の情景 が出るがこれらの舞台装置も馬鹿にならないのです。

コスチューム・チェンジも、時には、一度のショーで 13〜15 回もありブロードウェイ的ショー、 バックステージでは3人の着替えのフィリピン人ドレッサーが必要となる。

クリスタル・ クルーズのコール・ポーターショーでは、続けて約 7 分間も歌い踊り続けるシーンがあるが、次の シーンに移るときの息づかいのコントロールにも細心の注意を払います。

踊りの種類もかな りのバラエティに富み、したがって幼いころからのバレー等の基本が必須である。歌手やダンサー の船上生活は華やかそうに見えるが、実はかなり過激な仕事で、ショーのあるときは、必ずリハー サルがあり、ショー自体は 45〜60 分の出し物が続けて 2 回あるプロードウェイやラスベガスでは、 曲目はいつも同じで良いが、クルーズ客船では、クルーズ船客が、毎日変わるわけではないので、 そのレパトリーは、クルーズで 200 曲 以上にもなる。それ加えてダンスも出来なければならないのです。

歌の方もかなりの広いレパトリーの曲目をこなし、一回45分の舞台で約25〜30曲、クリスタル・ クルーズのロックンロールのショーでは合計 120 曲もの歌を歌い踊るのです。

本来の歌や踊りの仕事以外 に、通常は船客の乗下船時の受け付けをしたり、本船来訪者のエスコートをしたりもする。彼らが個室でゆっくり骨休めが出来るスペースが欲しいと言う要望が多数あったのです。

クリスタル・クルーズのショーは、就航後極めて好評で、ゲストのスタンディングオベーションやパフォーミングアー トの雑誌や旅行業界紙等での高い評価が得られれば、出演者自身の勲章となるのです。これが彼らの次のブロードウェイやラスベガス等へのキャリアパスとなるのです。

多国籍従業員(乗組員)雇い入れ会社 ICMA 設立

ヨーロッパを中心とした上級幹部船員/従業員(乗組員)雇用システムの構築に 関連、新会社の船員の採用を、自由で柔軟に運用するために、長所の多い便宜置籍船制度を採用する事で決 めていました。

船上における上級幹部船員やホテル部門のクルーの採用を柔軟に実現する事で、 彼らの国民性を最大限に生かしながら、船上における運航・滞在環境を創る事に決めていた運航部門では、日本人幹部船員が加わる。このヨーロッパ人の体制を、フィリピン人船員や従業員の採用で下支えする体制を基本としていたのです。

ヨーロッパを中心とする多国籍従業員(乗組員)の採用が本格化しだしたこともあり、クリスタ ル・クルーズとしての雇い入れ会社が必要になった。幹部船員やホテル部門の従業員の採用が始まる前に、その雇用関係に対するリクルート・雇用契約・ 送り込みなどの手配が必要になるが、この 一連の作業をオスロとマニラに、それぞれ会社を設立し、そこで一元的に処理する方法を編み出した。日本郵船は、(1) ヨーロッパなどのクルー採用の為に、ノルウェーのオスロに設置する

(2) フィ リピン人従業員(乗組員)の為の雇用・管理事務所を、マニラに開設するという案 が作られたのです。

雇用専門会社 ICMA(International Cruise Management Agency 資本金 45,500 ドル)をノルウェー・オスロに設立。同社が、ヨーロッパ系幹部・上級船員とホテル部門の従業員などの雇用の受け皿となったのです。

一方、雇用人数としては、圧倒的な数を採用しなければならないフィリピンクルー に関しては、フィリピンの合弁会社を通しての採用となった。1990 年初めからスタートしたクリスタル・ハーモニーのクルー雇用に 関しては、ここを通して対応しました。

ICMA に関して言えば、雇用問題には、ITF(国際運輸労連)対策が重要であり、そのために、この雇 用事情を熟知している経験者が重要との判断が働いたのです。

ロイヤル・バイキング社から、ノルウェー 人スベン・ピターセンを引き抜く事とした。同じノルウェーの業界人としてクリスタル・クルーズ の副社長フライデンバーグや、当時のプロジェクト担当者とも旧知で、この分野では管理能力を 高く買われていたのです。

面接の時、”将来性のあるクリスタル・クルーズに賭けたいと言っていたました。クリスタル・クルーズのプロジェクトの姿が具体化した頃、仮想競争相手と考えていたロイヤル・バイキング社は、将来の展望が描けず、アメリカの旅行代理店網からも、見放されつつあり、経営的に混乱していた状況でした。

ロイヤル・バイキング社の事情 に精通している彼のこのコメントは、これから立ち上げるクリスタル・クルーズに対する彼らが見 る競争相手としてのイメー ジを測ることが出来、幹部船員や従業員の中に、クリスタル・クルー ズで働いてみたいと言う将来の移籍候補者がいることを示唆していると思ったのです。

船籍などに関して、後の 1989 年 10 月、バハマに「クリスタルシップ・バハマ」が設立さ れる。これを機に「クリスタル・ハーモニー」の船籍もバハマで登録されたのです。

バハマに現地法人が設立されたことは、税制のメリット以外に、40カ国におよぶ国際船員や従業員の雇用を可能にする大きな意味があったのです。

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顧客のライフスタイルを知る

長期滞在しながら船上生活を楽しむ多くのクルーズ船客にとって、その「ライフ ・スタイル」と 言う基準を通して、快適な人間関係が創られる事が望ましいのです。

これをパッセンジャー・ミックスといいます。

確かに、 モノを買うのも旅の楽しみの一つですが、クリスタルクルーズ社が想定していたアメリカの客層にとって、究極の旅とは「旅の過程を大事にして、 体験を心に刻むこと」であると考えたのです。

クルーズゲストの中で、特に夫婦参加の場合、その体験を通して、 人生の足跡を「同期化」することにより、夫婦の喜びや失敗も共有できることは前述しました。

ラグジュアリー・クルーズ乗船客は、船上での滞在生活の中に、人生の「物語」を潜在的に求めている傾向があります。

思い出を心に刻みたいと思っている人たちである。「記憶に人生の価値や感動を刻む」仕掛けが至上の要請です。

その実現のためには、彼らの船上におけるライフ・スタイル(客相)に最大限に配慮(乗客の世界を知らずして、心配りはできない)をしつつ、クルーズ客船による旅行の”中心”に 「クルーズ船客がいる」という、船上での“舞台”を演出することでした。

船上で彼らが持つライフスタイルや生活・文化と船上で提供する舞台装置の融合する「仕掛け」が 成功の可否を決めるのです。

「サービス」という(船上の)プロダクトの評価は、多くは「人的要因」で左右される傾向が強い。 相性がよければ、訴求力もあり永続性が高いのです。

従って、競争船社よりも優位に立つためには、この 「人的要因」にメスをいれ、新会社が絞り込んだアメリカ人船客層のライフスタイルに基づく「客相」を理解して、クルーズ船客と船で働く従業員(乗組員)との「ケミストリー」の結びつきを強化することが重要。

クルーズ船客との関係においては、「人間」関係を基本と したサービス、それがホスピタリティサービスの基本です。

それは、双方の信頼関係や相性で成り立つものです。

クルーズ船客は、自らの支払うクルーズ料金に対して、クルーズ会社からのこのケミストリーとそれ相応のサービスの提供に「期待」を込めているのです。

「ソーシャル(社交・人的交流)」についてみると、船上における「ヒトとヒトの織り成す人的な要因。

それもお互いのライフスタイルが理解できる客層」がその宿泊・滞在経験価値の核をなす。

従って、新会社として、この事業を長く続けるためには、先ず 「ソーシャル」の分野で他社と大きな違い・特徴を生み出そうと考えたのです。

この充実度が、将来の戦略の核となる、他社との差別化(デフェレンシェーション・差異化)で決定的な差となると考えました。

それは、船上におけるコンテンツのみならず、営業の面における販売網における戦略なとも連動させるのです。 

この確信を元に、「ソーシャル」の面から、船上の滞在環境を考える際に、下記のようなシナリオを描いてみました。

a)船上の滞在環境は、クルーズ船客が主役で、「全ての中心にいる」滞在環境とする。その上で、 従業員(乗組員)との親密な環境を演出し、「ファミリー(後のクリスタル・ファミリー)」的雰囲気を創り出す。「サービス」は、クルーズ客船運航会社の仕掛けである程度対応できるにしても、「ソーシャル」は、そこにいる人間性の交流である。

新しい仲間との交遊の楽しみや人情の発見や歓楽 欲を満たすような食後のロマンチックな環境が重要。

これを円滑にするためには、主役であるクルー ズ船客を支える多様な文化的歴史的な背景を持った多国籍従業員(乗組員)や他の国から来たクルーズ船客の心地よいハーモニーが必要である日本的で同質的な「おもてなし」を越えて、 国民性の違いを通して、「驚き」「感心」「新しい発見」などがこの事業に活力を与えると考えたのです。

b)このようなクルーズ客層の中から、彼らのライフ・スタイル(「客相」)に合わせて、最も快適 な環境を創り出す。

その環境を創るということは、これらの人たち の客層のライフスタイルを理解し、彼らが日常どのような生活をしているのかを知り、どのようなものに興味を持っているかなどを知ることでもあるのです。

サービスを提供する側としても、例えば食事のテーブル・ホストとしての役割は、食事の質やサービスに加えて、その場で2時間余を、彼らが興味を持っている朝のワイドシ ョーや テレビ番組「ベイ・ウオッチ」「ダラス」等のソープ・オペラなどの話題にも積極的 に参加できるような、ある程度の「彼らの常識」を基にした社会知識と言葉(会話力) が必要になリマス。

サービスを提供する立場としては、船上での社交を通して、彼らが 快適と思う「逗留体験」と「パッセンジャー・ミックス」の本質を常に見極める必要があるのです。

c) 「ソーシャル」を演出するには、「贅沢な選択肢」の提供を考える必要もある。 

ラグジュア リー・クルーズでは、「長逗留」が基本で、彼らにとって逗留中の食事をはじめ、人の 出会いや多彩な娯楽など、感動と感性を覚醒する滞在環境を演出する必要がある。

お仕着せの企画 ではなく、多くの選択肢の中なら、彼らが 「気の向くまま」選べるだけの潤沢なメニューを満たす 商品企画力が必要となる。

既存のラグジュアリー・クルーズ客船社との差別化のために、新しい試みとして、競合他社のプロダクトのみならず陸上のリゾート・ホテルなどのサービスやそのコンセプトも積極的に導入する。

これは、多彩な食事の面でも考慮されねばならないのです。

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「ウェルネス」は富裕層インバウンドの理想

ウェルネスとは

「ウェルネスビジネス」について考えるときは、「ウェルネス」と「ビジネス」を分けて考える と理解しやすくなります。まずウェルネスとは、身体的・精神的・社会的に良好な健康状態のこ とです。もともとは身体の表面だけでなく、総合的に健康について考えた概念であり、アメリカ のハルバート・ダン医師が考案しました。そしてウェルネスをビジネスに、つまり商業的に活用 しようとした概念がウェルネスビジネスです。ウェルネス資源の多い日本において、富裕層に向 けたインバウンドのブランド戦略としても、効果的だと考えらえます。

改めてウェルネスビジネスとは、病院など体調を崩したときに利用するサービスではなく、健康 維持や病気予防といった視点でサービスを提供することを指します。 日本においても少子高齢化 などを理由に、健康寿命への関心が高まっています。そこで考えたいのが、世界的に注目を集め る「ウェルネスビジネス」への参入です。ウェルネスビジネスの代表的な例としては、スポーツジ ムやヘルスカウンセリング、社会的に交流するコミュニティ活動などが挙げられます。人生100年 時代といわれる昨今、日々さまざまなメディアで健康寿命の重要性が取り上げられており、日本だ けでなく世界でもウェルネスビジネスは注目されているのです。

ウェルネスビジネスの市場予測

ウェルネス業界の研究機関「Global Wellness Institute (GWI)」の調査によれば、2018年時点で ウェルネス業界の世界市場規模は4.5兆ドル、日本円にして約500兆円にのぼるとのことです。こ れは世界の総医療費(7.8兆ドル)の約57%に相当し、非常に高い割合を占めていることがわかります。

また、この数字はウェルネス・メンタル産業や、ウェルネスフード・栄養・ダイエット産業、ウェ ルネスツーリズム、パーソナルケア・ビューティー・アンチエイジングなども含んでおり、これら の分野はさらなる成長が予想されます。たとえばウェルネスツーリズムの世界市場は、イギリスの リサーチ企業「TechNavio」のレポートによると、2020年~2024年の間に約3,155億ドルもの 成長が見込まれています。

少子高齢化が進む日本では今後、シニア・高齢者層が社会の主要構成員となるため、健康寿命に 関する取り組みは避けて通れません。これを疎かにすれば、社会保障費をはじめとする負担の増加は免れないでしょう。こうした事情を考慮すると、日本における今後のウェルネス業界の成長性はきわめて高いといえます。

ウェルネスビジネスの具体例:パーソナライズドフード

「パーソナライズドフード」とは、人それぞれの趣味や嗜好、体型、健康状態などに合わせた食 べ物のことをいいます。昨今の日本では、健康的な食事に絶対的なものがあると思われがちです が、当然ながら人それぞれに合う・合わないがあります。

たとえば、屋外で土木・建築などの肉体労働をしている人と、屋内でデスクワークをしている人 とでは、必要な栄養素やカロリーは異なるでしょう。前者は一定の脂質や糖質を取らなければ1日 もたないことも多く、後者は肉体労働の人と同じ食事だとカロリーオーバーで食べすぎです。この ように各々のライフスタイルや職業、体型など、あらゆる点において考えられた食事が求められ ているのです。
その点、パーソナライズドフードは個人に最適化されており、今よりもっと幸せな暮らしをもた らす可能性があるほか、環境問題・食糧危機・フードロスなどの社会問題の解決にも寄与します。

パーソナライズドフィットネス

「パーソナライズドフィットネス」とは、パーソナライズドフードと同様に、個々人の健康状態 や生活スタイルに合わせたフィットネスのことを指します。
わかりやすい例としては、アスリートと一般人との運動強度(トレーニングの強さ)の違いが挙 げられます。一般人がアスリートのようなトレーニングをすれば、怪我をする可能性が高まりま す。逆に、アスリートが一般人と同様のトレーニングを行っても、強度が足りず体を鍛えるには足 りません。
パーソナライズドフィットネスでは、日々のトレーニング具合や成果をデータで保存すること で、長期的な成長を確認でき、モチベーションが続きやすいメリットがあります。ほかにも、 個々人に最適化されたトレーニングゆえ短期間で効果が出やすい点も特徴です。

ウェルネスツーリズム

「ウェルネスツーリズム」とは、心身の健康維持を目的として行われる、温泉・ヨガ・スパ・瞑 想・ヘルシー食などを取り入れた観光のことです。日本ではあまり聞き慣れない言葉ですが、 フィンランド政府観光局が2020年5月、自然豊かなフィンランドの暮らしを疑似体験できるオン ラインプログラム「バーチャル Rent a Finn」を開始したことで、にわかに話題となりました。

一般的な旅行でも、温泉や瞑想を目的とした観光は可能です。温泉地に行き、ヨガや簡単なト レーニングをしてから温泉に入り、瞑想をするといった計画を立てれば、立派なウェルネスツー リズムといえるでしょう。それゆえ上記2つと比べ、一般人でも気軽に取り組みやすいのがウェル ネスツーリズムの特徴で、よりスムーズな参入が見込めるでしょう。

日本の魅力とポストコロナ

若いころさまざまな理由で日本を離れていたものの、老後は故郷で暮らしたいと考える人が増えているそうです。在留邦人のみならず、日本は海外の外国人からも移住地として人気があります。 エキゾチックな国に旅行して、その伝統的なライフスタイルに魅せられ日本をホームにしたいと考 える人もいるようです。

海外送金サービス会社「Remitly」が101カ国に住む人たちを対象とした調査を行いました。、 Google検索データから「海外移住について調べるときによく使われる検索ワード」の月平均検索 量を分析した結果、移住先として人気がある国1位がカナダ、ついで日本は2位であることがわかりました。

日本への移住を検討する理由としては、「医療の充実」「治安の良さ」「風光明媚な景観」など が挙げられています。

治安がいい、安全、秩序、ハイテク

もう少し丁寧に追ってみると、日本は地球上で最も犯罪率が低い国の1つです。社会学者、心理学者から一般の人まで、誰もが日本をとても安全だと証言します。安全性の低い国から来た外国人 にとって、犯罪の発生率が低いことは、日本の日常生活において気が休まります。東京のような大 都市での犯罪率が驚くほど低く、秩序が保たれています。犯罪に巻き込まれる心配なしに生活できます。

日本では夜間に出歩くときですら心配する必要はありません。車に鍵を置いたまま放置していて も、家のドアを開けっぱなしにして出かけても、無事です。2019年、グローバルピースインデッ クスは、163カ国のうち日本を世界で9番目に安全な国としてランク付けしています。

また主要都市には病院があります。緊急事態が発生して医師の診察を受ける必要を感じたら、すぐに予約して診てもらうことができます。

日本は世界で最も近代的で技術的に進んだ国の1つです。たとえば、 東京と横浜は、テクノフィリアや大都市愛好家にとって完璧な都市です。この国は伝統と現代が混ざり合っています。豊かな文化と歴史を持つ土地だけでなく、技術の先進国でもあります。東京と横浜は、ファッション、アー ト、フードの世界的に有名な中心地です。そして東京はミシュランの星を世界で最も多く持ってい る都市です。日本には繁栄している産業がたくさんあります。ハイテク産業やロボット工学だけでなく、金融や観光業でも仕事を見つけられます。英語を話す人や英語の先生がしばしば求められ ます。外国人の雇用は東京で生まれており、東京には多くの外国人が住んでいます
日本の公共交通機関は世界一と言ってもいいでしょう。

電車は、世界で最も信頼性が高く、時間 厳守で効率的なシステムであるため、日本で最も人気のある交通手段です。新幹線には外国観光客 向けのレールパスがあり、自由な時間に国を探索するのに役立ちます。短時間で、あなたは国のす べての目的地を探索することができます。東京はとても素晴らしいインフラを持っています。車を 運転する必要はありません。電車は10分おきに到着するので、移動はとても簡単です。他のオプ ションはバスとタクシーです。しかし、タクシーの運転手は英語が上手ではありません。 日本で 生活していると、車社会ではないのでよく歩きます。

この利便性と秩序が行き届いた国で暮らしていると、日本国外に住むことができないことに気づ きます。何があっても、スムーズに運行されるので、予期せぬ事態を想定したりせずに済みます。

自然が美しい

日本の自然景観は世界的に有名です。それは無数の芸術家や詩人に影響を与えました。屏風や版 画、多くの絵画で風光明媚な日本の自然をとらえています。日本は地理的な多様性に富み、有名な スキーのリゾート地があり、また他方で火山活動の恩恵を受けた温泉もあるのです。日本は緑の 森が多く、湖、川や海など、訪れる場所がどこであっても自然との調和を感じます。

特に日本の寺院や庭園では、平和と静けさを見い出します。有名な寺院や庭園には、鎌倉市の鎌 倉大仏殿、龍安寺、兼六園などがあります。外国人観光客が迷子になったり混乱したりした場合 でも、日本ではほぼ全員が非常に親切で丁寧に対応してくれます。例外なく。

地震や台風などもありますが、日本の長い歴史で自然災害と上手に付き合ってきたように、多少
の一時的な不具合をしのげば、それほど不自由でもありません。

日本人は世界で最も長い平均余命を持ちます。健康的な日本食が注目されています。自然の豊かさ が育む、食材と健康には関連があると思います。日本では、食べ物は常に短時間で調理され、生 で提供されるものも多いです。ご飯、魚、野菜・果物が中心です。砂糖はあまり消費せず、抗酸化 物質が豊富な緑茶を毎日飲みます。またメニューにはバラエティがあり、発酵食品が日本食を豊か にしています。

先進国の中でも日本の物価は低い

有料老人ホームの費用アメリカの都市部では、高齢者向けの施設に入居するには月額3000ドル、 4000ドルの入居費用がかかります。日本の場合、都心部でも20万前後で入居できます(各施設やサービス内容によって料金は異なります)。

他の先進国と比べて日本の物価は格段に安いです。日常生活に必要な衣食住の値段は、だいたい アメリカや欧州の先進国と比べると3分の2ほどの値段です。もちろんピンからキリまであり、高級な寿司店やレストランなどは別として、吉野家の牛丼の並盛りが388円。タイや台湾などの屋台 料理の値段とさほど変わりません。東京ではドリンクやデザートも込みで美味しい1000円以下で ランチが食べられる店も多いですが、ロンドン、パリ、ニューヨークなどではありえない話です。

パーマネントトラベラーの『ウェルネス』フラッグを日本に立てる

移住したくなるほどに快適で安心で、そして物価も安い、そんな日本の魅力は1、2週間の短期観 光だけにとどめておくのではもったいないです。日本はPTの旗国としても魅力があります。

Wikipediaを参照すると、PTにはパーペチュアル・トラベラーが当てられています。個人が複数国を拠点に分散的に旅をし続けることで、所得税や資産税、社会保障負担金、陪審義務、兵役など、居住に伴う法的義務を回避することができます。必ずしも、節税といった消極的なアプロー チのためのPTばかりではなく、むしろ国家から自立し、世間の価値観に振り回されず、個人の自 由な生き方を突き詰めることができます。まさに、クリエイティブな富裕層にピッタリはまる生き 方とも言えます。PTライフを充実させるサービスはオフショア金融サービス、租税回避スキー ム、個人のプライバシーサービスを売りにする企業の定番商品になっています。『Luxury Travel』分野においても、その視点を狙った大胆な商品開発があっても面白いと思います。

投資のスペシャリスト、ハリーD.シュルツにより『フラグ理論』が提唱されています。初めは、フラグは3つで、誰もが2つ目のパスポートとタックスヘイブンの住所を持ち、資産を母国の外に保 管するというアイデアでした。後に、お金を稼ぐ場所とレクリエーションの場所が含まれるよう になり『5つのフラッグ理論』として定着しています。

パスポートと市民権:国外で稼いだお金に課税したり行動を管理したりしない国。

法定居住地: タックスヘイブン。
事業基盤: お金を稼ぐ場所、理想的には法人税率の低い場所。
資産の天国:お金を貯める場所、 理想的には受動的所得とキャピタルゲインへの課税が低い場所。
遊び場:お金を使う場所、理想的には消費税の安い場所。

パスポー トを持つ国、居住書類を持つ国、ビジネスを行う国、資産を持つ国、快楽を追求する国。 PTは、これらを分散して棲み分けていくわけです。この5つのうちの『快楽を追求し、お金を 使って遊ぶ』国として日本の『ウェルネスクオリティ』のコスパの素晴らしさを認知してもらう のです。ここでは『PT』を先駆的でエッジが立っている自由な旅行者という意味で『パイオニ ア・トラベラー』と呼びます。PTには、貧困PT、中間層PT、ハイクラスPTと階層がありますが、 その3クラスのうちのハイクラスのPLT(Pioneer Luxury Traveler)に日本に度々訪れてもら うのです。

快楽の追求には2種類あります。いずれも日本には理想的なほど十分なポテンシャルが埋まっています。

・リラックスできる(マッサージ、風俗、食事、サウナ、瞑想など)
・体を動かす、集中力を必要とする
(トレーニング、スポーツ、畑、語学学校など)

日本は旅先としての魅力があり、安心・安全への信頼も高い国です。一方で、富裕層旅行の領域では情報発信が少なく、「謎めいた国」でとどまっているのも事実です。

コロナ感染症やロシアの ウクライナ侵攻などこれからの世界情勢が読めきれないことなど課題はあるものの、日本の観光立国としてのポテンシャルが高いことは間違いありません。

まずはアメリカの富裕層PLTに向けた 日本の『ウェルネス』フラッグ戦略を立て、しっかりとそして1つずつ『Luxury Travel』の ニーズに応えていくことで、コロナ回復期の軌道を切り拓くことができると考えます。

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ラグジュアリートラベラーが求めるもの

2つのパターンの富裕層旅行者

JNTOの独自ヒアリング調査で、富裕層には2つのタイプが存在していることがわかりました。

1 つ目のタイプは「Classic Luxury(クラシック・ラグジュアリー)」といって、とにかく何においても贅沢で高価なものに価値を見出す典型的なお金持ちです。

2つ目のタイプは「Modern Luxury(モダン・ラグジュアリー)」で、若い世代を中心に最近どんどん増えている新しいタイプの富裕層です。彼らは豪華、権力、富といったキーワードよりも、文化、本物、体験といったものに対して価値を見出します。

なお、富裕者の消費に関しては、「All Luxury」と「Selective Luxury」に分類されます。前者 はとにかく何に対しても贅沢かつ豪華にお金をかける人たちで、後者は興味のないことには全く お金を使わないけれど、興味のあるものには徹底的にお金を使います。何にお金をかけるのかを 選んで消費するタイプです。

従来型の「Classic Luxury」の人たちは「All Luxury」の傾向が強く、最近のトレンドである 「Modern Luxury」の人たちは「Selective Luxury」の傾向が強いと言われています。

例えば「Classic Luxury」タイプは、常にブランド服や時計を身につけ、旅行でもビジネスクラ スにしか乗らず、5つ星ホテルにしか泊まりません。

一方の「Modern Luxury」はFacebookの創業者マーク・ザッカーバーグのように、お金は持っているけれど興味のないものにはお金をかけません。

服装はTシャツに短パン、サンダルで、車にも乗らないけれど、サイクリングが好きだから何百万もする自転車は買う、日本に旅行した際は5つ星ホテルではなく日本でしか体験できない 高級温泉旅館に泊まる、といった具合です。

「Modern Luxury」タイプは好きなものには徹底的 にお金を費やす傾向にあります。

自分の興味関心や本物の体験に対しては徹底的に投資するようです。タイプごとにアプローチ方法やプロモーションのポイントも違ってきますので、富裕層のインバウンドを誘致する際にはしっかりと把握しながら、それぞれに刺さるものを選んでケアしていく必要があります。

求めているのは「本物体験」

最近のトレンドとしては「本物の体験」を求める富裕層が多いです。インバウンド業界でよく話題 に上っている「モノ消費からコト消費」という傾向が、富裕層マーケットではより顕著に出てきます。

お金を持っているので欲しいものは何でも手に入るわけですが、体験となるとその場所に 行かないとできないからです。

これまで富裕層に人気だったのは、イタリアやフランスといった誰もが知る観光地でしたが、最近ではキューバやアイスランド、クロアチアなど、これまで注目を 集めてこなかった国の人気が上昇しています。

行ったことのない、何があるかもわからない国で新しい体験を求める傾向が強くなってきていて、日本も富裕層に人気上昇中の旅行先にランクインしています。

富裕層が日本旅行に求めているのは食や文化、ホスピタリティなどです。訪日旅行をした富裕層に 日本旅行を選んだ理由を尋ねたところ、「本物の日本文化・伝統に触れたい」「日本人のライフスタイルに触れたい」「日本食を楽しみたい」といったものが上位に入ってきました。そのため、日本ならではの魅力や日本でしか体験できないことを打ち出していくことが重要です。

超富裕層の多い中東ですが、あちらの国では日本のことを「Planet Japan」と称することがあるようです。

日本に対して、地球外の別の惑星のように『未知なる国』というイメージを持っているそうで す。すごく神秘的で興味深く、極東の小さな国なのに独特な文化や歴史を持っていてすごいと思 われている一方で、遠すぎてよくわからないため、旅行先として候補になってきませんでした。

旅行の目的や興味関心は多様化してきているなかで、日本には、日本ならではの魅力や日本でしか得られない特別な体験など、多様な観光コンテンツが一定程度揃っているため、満足を得られているようです。

一方で、今後はより幅広いコンテンツ(日本の伝統文化以外にも、自然や食、 モダンアートなど)の造成や整備を進めていくこと、また日本が発信している情報が少ない点など、今後の課題となっています。

「意味消費」で世の中に役立つ旅行

イミ消費というのは、モノ・コト消費を超え、自分の消費行動によって世の中に役立つと思うこ とができる消費を指します。

ミシュランで評価が高いレストランなどは、地元の農場やパートナー 企業を支えるための活動をしています。お手頃な価格のランチを提供することにより仕入れ量を増やしたり、地域を助けるための募金活動にも関わっています。街一丸となって万全を期して観光 客を迎えようとしている姿に、地域全体が支え合っていると感じて感銘を受けるのです。

こうした 「一体感」に旅人は心を動かされ、来年も行きたいと考えるのです。海外でエンジェル投資家が多い理由に、「奉仕」「助け合う」などの宗教上のバックグラウンドがあるのですが、富裕層旅行者にも、実は同様の理由があるかもしれません。

観光に詳しい三菱総合研究所の観光立国実現支援チームリーダーの宮崎俊哉氏は「今こそ日本観光産業の新陳代謝のタイミングだ」と主張します。

特に、日本でも地域やサプライヤーを巻き込んだ対策と発信を強化する必要があると言います。 星野リゾートグループが提案しているマイクロツーリズム(3密を避けながら近場で過ごす旅のスタイル)や、ホームページで自社施設内のコロナ対策を紹介している事例、コロナで困った農家や 生産者の商品を個人向けに販売するサイトの事例はありますが、国や地域、そして業界全体の取 り組み施策を発信している事例はまだまだ少ないのが現状です。

海外の富裕層も、今すぐ日本に行けると言われても、新型コロナの検査も対策も緩い日本への旅行を不安に思うかもしれません。

以前宮崎氏が取材した年収2億円の30代女性は、「もしかしたら今行くと、訪日外国人に対し不安感を抱く日本の人々も多いかと思う。いつまた楽しく行けるかは不安だ」と本音を漏らしました。

だからこそ、海外へ積極的に情報発信することが大事になってくるのです。「店から地域全体の取 り組み」「イミ消費の促進」といった内容を、積極的に発信するのも重要です。こうしたことの積み重ねにより、日本への旅行を希望する富裕層への情報ギャップを減らし、コロナ後のインバ ウンド観光をスムーズに再開することができるのです。

経営難のホテルを買収する富裕層とニセコ

今は観光産業に暗い影が差していますが、今後インバウンドが回復する兆しも見えているのです。

インバウンドに詳しいクロスシーの執行役員の山本達郎氏によると、日本には来られないが、経営難の旅館を手頃な価格で買収している富裕層もいると言います。今後の日本観光の回復と発展に備えたうえでの投資だとみられますが、地域全体の努力および積極的な情報発信に踏み出す価 値があることを示す、1つの動きとも考えられるでしょう。

堀江貴文氏と宮台真司氏がYouTubeで「日本が生き残る道」について対談をしていました。

水や食べ物が豊かで、平和で、かといってどこか『珍妙さ』が残る国、日本。その珍妙な存在が居続ける国のオリエンタリズムを売りにすれば観光立国となりうる、どこにでもあるものをクー ルに魅せることで勝負するのではなく、日本独特の『珍妙さ』で旅行者は刺激されるいうのです。かつて打ち捨てられていた町ニセコは、既得権益がなかった分思い切った改革ができた例とし て挙げられていました。

ニセコといえば国会議員の逢坂誠二氏がニセコ町長時代に、全国で初めて地方自治体の憲法とも いえる「ニセコ町まちづくり条例」を制定したことで有名です。ニセコ町視察に行きたいとなると、宿泊の手配と旅程調整は株式会社ニセコリゾート観光協会が窓口となりやってくれます。

観光協会を株式会社にしたのはニセコ町が初めてです。

町長を観光資源に据え、商品として視察をオー ダーメイドのパック旅行商品と捉えている点がとてもユニークです。

先進的な取り組みをしていたり、人間的魅力のある首長がいる地方自治体には多くの人が訪れます。首長が人を引きつけてくれる、それだけでも経済効果があります。

ニセコの極上パウダースノーは、他に類を見ないサラサラの雪質が人気で多くの客足を呼び込んでいます。今や日本で最も国際的なリゾート呼ばれるほど知名度が上がりました。

昔、誰も見向きもしないさびれた町だったのが嘘のようです。

そのきっかけは、2000年頃にSNSを通じてオーストラリア人によってニセコの魅力が拡散されたことです。その後、フランス、イギリス、ドイツ、 北欧などのヨーロッパに広まり、アジア諸国からもスキーヤーが訪れるようになりました。ニセコはナイターも充実しており、温泉や北海道のグルメも満喫できるとあって、人気の勢いが止まりません。

ニセコは観光客の対象を香港・シンガポール・マレーシアなど、外国人の富裕層に特化している ことも成功の秘訣だと言われています。ニセコ地区では、外国資本による別荘や長期滞在コンドミニアムの開発、高級ホテルの建設ラッシュです。富裕層の外国人を相手にしているため、物価も世界の高級リゾート相場になっています。1泊50万円を超える高級ホテル、お寿司のランチは1万円 から3万円の価格帯も見られます。

ニセコの大自然に惚れ込んだ旅行客はビジネスチャンスを求めて、移住を決意する人もいるほど で急速に国際化が進んでいます。移住者向けのインターナショナルスクールやスーパー、レストラ ンも多く、ホテルのオーナーが外国人だったりと、国際的な雰囲気を醸しています。

コロナ感染症の影響で外国人消えたニセコ

「世界的にコロナ感染が拡大してからは訪れるのは国内のお客さんだけですね。外国人も国内在 住の方です。昨年の緊急事態宣言では、冬場だけ働いていていた外国人が帰国できず、『コロナ難民』と言われていたのですが、そのまま住み着いた人たちもいます」(地元観光業者)

国内外からの活発な投資を背景に、ニセコエリアの中心部にあたる倶知安町の2021年の公示地価 は商業地、住宅地ともに上昇率が日本一となっています。商業地は4年連続、住宅地は3年連続というから突出しています。北海道を代表する札幌の繁華街・ススキノ地区の地価が前年比で下落し たのとは対照的です。

ニセコでは高額な不動産物件も売りに出されています。

・かけ流しの天然温泉風呂(内風呂、露天風呂)完備のヴィラ
・茶室と専用ウッドデッキが備わった新築タウンハウスユニット
・倶知安中心部 国道5号線沿いの商業物件 (1階は回転ずしエリアと厨房など、2階は事務所、居住エリア)
・家具付き高級ブティック使用のコンドミニアム(1ベッドルーム) 4890万円

2030年度末には、北海道新幹線が延伸し、新函館北斗~札幌間の約212kmが開業予定となっており、この区間にはニセコエリアの倶知安駅も含まれ、駅前整備が予定されています。さらに、2030年札幌五輪誘致の動きもあります。大会概要案では、アルペンスキー競技を後志管内倶知安町とニセコ町で行うことになっています。

一時と比べると投資熱は落ち着いてるようですが、北海道新幹線延伸などを見越した海外富裕層の投資活動は今も続いています。

今年に入りマカオなどでカジノを運営する大手グループがニセコ でホテル等を開発すると発表しました。報道では投資金額は400億円とのことです。6月にはマ レーシア企業のコンドミニアム建設も報じられています。少し離れたエリアになりますが、外資系高級ホテル、パークハイアットニセコHANAZONOが昨年オープンしましたし、アマンニセコは 2023年開業予定となっています。

富裕層に刺さる魅力的なコンテンツとは

通常のインバウンド旅行者であれば、日本に来たからこそ体験できる、価値のある観光コンテン ツがあれば十分です。富裕層はそれだけではダメで、価値を提供する際に工夫が必要とされます。 どんなにいい食材があっても料理人が下手であれば美味しくないのと同じで、どんなに価値のあ るコンテンツでも、提供の仕方が悪いとその価値をちゃんとわかってもらえません。

例えば、通常の陶芸工房ではお弟子さんや一般の方がグループ単位で決まった時間に伝統工芸に ついて教え、体験してもらうというコンテンツが多いのですが、それでは富裕者層は満足しません。本物のプロから教わりたいという気持ちが強いのです。富裕層向けの取り組みをされている 岐阜県の加治田刀剣さんでは、刀匠自らがマンツーマンで教えるというスタイルを取っています。 誰にでもできる体験ではないので付加価値がつき、高価格でもとても喜ばれます。この体験コン テンツは1人10万円近い料金設定ですが、外国人が殺到しているそうです。このように人間国宝 から直接手ほどきを受けて何かを作る体験など、値段は高くても一歩踏み込んだ特別なサービス の提供が必要になります。

次に「融通のきく体制」もポイントになります。富裕層は、貸し切りたいとか、普段は非公開になっているところに入りたいなどの要求が強く、特別感を大事にしています。一般の旅行者と同じものを見るのではなく、自分だけのために開けてほしい。そういった高い要求のオーダーがある ので、柔軟に対応できるような体制を整えておくことも重要です。

あるホテルのコンシェルジュの方は、富裕層のお客様から「東京大学の〇〇先生が万葉集を研究していると聞いた。うちの娘が大学で日本文化を勉強していて、今日その教授から直接レクチャー を受けたいと言っている」といったオーダーを受けたこともあるそうです。想定外のカスタムオー ダーに対していかに柔軟な対応ができるのかというところで、ビジネスが左右されます。

さらに言えば商品性、つまり商品としてきちんと完成されているのか、たやすく手に入らない稀少性があるのかという点も重視されています。「1日1人限定」とか「高価である」ということが 重要です。日本人は高品質のサービスを安く提供したがる傾向にあります。実は、価値に見合った 料金設定が大事なのです。富裕層は価値のあるものに対してはいくらでもお金を払うので、決して 安売りをする必要はなく、自信を持って値段をつけることが大切です。

これは富裕層をターゲットにした『Luxury Travel』に限った話ではありません。地域のブランド を作っていくにあたり、まずは地域の観光資源についてしっかりと把握する必要があります。実 は今あるもので十分だということです。大事なのはそれをインバウンドのビジター、あるいは富裕層の心に刺さるよう磨き上げていくことです。また、点だけで旅行する人はいませんので広域で連携することが大切です。

何かひとつフックになるようなコンテンツをもちながら、広域で連携してルートを作り、シェアしていく必要があります。さらには、ストーリー性やその土地に根付い た歴史や文化をしっかりと伝えていくことで、日本ならでは、その土地ならではの魅力が生まれます。テクニカルな部分ではしっかりとターゲットを絞り込んだプロモーションを実施していくことも大切です。

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富裕層インバウンド方向性

これからのターゲティング

富裕層のリベンジ・トラベル熱が高まる今、本レポートは『ウェルネス立国』日本の珍妙なオリ エンタリズムを切り口に、トレンドとなっている『Luxury Travel』(上質な観光サービス、富裕旅行)において、富裕層が求める旅のあり方はどういうものなのか探っていきます。過去最低を記 録した2021年の訪日観光者数は2019年比、99.2%減の24.5万人でした。そのうち、中国、ベト ナム、アメリカ、韓国が2万人以上でした。コロナ感染症の影響が出る前の2019年には、訪日客数は過去最高の3188万人を記録し、1位中国959万人、2位韓国558万人、3位台湾489万人、 4位香港229万人、5位アメリカ172万人でした。訪日アメリカ人観光客数においては、対前年度 でも12.9%アップと堅調な伸びを見せるなど、ここ6年間訪日者数は伸び続けており、2014年に おいては89万人だった客数は、2019年には約1.9倍にも膨れ上がっています。また訪日アメリカ 人のインバウンド消費額も伸び続けており、2014年においては1,475億円、2019年には約2.2倍 となる3,265億円となっています。

観光庁の発表によると、2019年の訪日外国人旅行消費額は4兆8,135億円と推定されており、1 人当たり旅行支出(一般客)は15万8,531円となっています。国籍・地域別に旅行消費額をみると、中国が1兆7,704億円(構成比36.8%)と最も大きくなっています。次いで、台湾5,517億円 (同11.5%)、韓国4,247億円(同8.8%)、香港3,525億円(同7.3%)、米国3,228億円(同 6.7%)の順となっており、これら上位5カ国で全体の71.1%を占めています。なお、2019年の 訪日アメリカ人一人当たりのインバウンド消費額は189,411円を記録しています。費目別に旅行消費額をみると、買物代が34.7%と最も多く、次いで宿泊費(29.4%)、飲食費(21.6%)の順 で多いのですが、訪日アメリカ人の支出においては少し様子が違います。最も大きな割合を占め たのは宿泊費で、83,125円でした。2番目に大きな割合を占めたのは飲食費で、48,279円でした。 宿泊に全体の約4割、飲食を合わせた寝食の支出は全体の約7割を占め、長期間滞在する観光客が 多いことが分かります。

これからのことから、コロナ後の段階的回復期に『ウェルネス』戦略でインバウンドの『Luxury Travel(上質な観光サービス、富裕旅行)』構想を展開するには、非アジア圏のアメリカ人観光 客と一番相性が良さそうだということが浮かび上がってきます。

訪日アメリカ人富裕層が望むサービスとは

日本への旅行に求めることとして「街を散策する」「観光名所を訪れる」という回答が多く、18 項目中で1位、2位という結果になりました。また、「博物館や美術館に行く」が中間層よりも特 徴的に多いことからも、富裕層は自然よりも街を好む傾向があるといえそうです。なお、中間層 が最も高いのは「自然景観を楽しむ」で、街を好む富裕層と対照的な結果になっています。

直近3年以内に訪日経験がある人とない人(共に富裕層)とで比較すると、2回目の訪日では「コ ト消費」を志向する傾向が見られます。訪日経験がある人は「自分を解放する」「その地域特有 のレクリエーションを体験する」「その地域特有のイベントに参加する」「バーやクラブでナイ トライフを楽しむ」といった「コト消費」の項目が高くなっていました。病気を良くする、検査 する(ヘルスケアツーリズム)は15.2%で、まだ開拓の余地がありそうです。またヘルスケア ツーリズムを健康面だけで捉えるのではなく、ウェルネス(全体的なヘルス)へと拡大して情報 提供することで、ポイントを伸ばせる可能性があります。「また行きたい」「行ってよかった」と 思ってもらうためには、その地域のオリジナリティがあふれる「コト消費」を意識した施策や訴 求が有効であることがわかります。

滞在先の自治体に注力してほしいことの項目では「外国人向けの情報発信の充実(インターネッ ト)」「フリーWi-Fi通信環境の充実」が富裕層、中間層ともに上位にきています。、ネット環境 の充実はソフト面、ハード面で大事なファクターになっています。中間層と7.1ポイントの差をつ けた富裕層に特徴的な要望として、5つ星ホテル(ラグジュアリーホテル)の充実が挙げられています。

また、富裕層は中間層と比べて「オーバーツーリズムの緩和」を望む傾向があるようです。「オー バーツーリズム」とは、観光地が耐えられる以上の観光客が押し寄せる状態(過剰な混雑)のこ とで、世界的な問題となりつつあります。それに対すして、中間層と比較してアメリカ富裕層が望 む改善要望策として「名所、観光地、美術館/博物館等の入場料の値上げ」という回答に8.1ポイ ントの開き(富裕層31.2%/中間層23.1%)が出ている点に大きなヒントがあると思われます。他の回答は以下の通りでした。(「インテージ調べ」)

・早朝からの名所、観光地、美術館/博物館等の営業(富裕層42.2%/中間層43.3%)
・ホテル/宿泊施設の総量規制(35.3/36.5)
・まだ観光客が少ないエリアへの案内/誘導(32.6/33.7)
・早朝からの名所、観光地、美術館/博物館等の予約入場制度(29.8/30.8)
・旧来名所旧跡ではない、新しい観光コンテンツの開発/誘導(23.9/20.2)

富裕層アウトリーチ

アメリカ人富裕層の旅行トレンドや目的をアメリカのサイトで検索してもなかなかデータが出てき ません。富裕層の情報源は、一般庶民とは違うのではないかと感じています。個別カスタマイズ で旅をオーダーしているためと推察します。日本ではあまり馴染みがありませんが、旅行商品に特 化したMLM形態のビジネスが増えてきていることも背景にあるのかもしれません。

いずれにせよ、訪日外国人富裕層が求めるコンテンツや情報提供が十分に行き届いている状況に はなく、パイが大きい割には未発達の市場であると言えそうです。

5つの「日本ウェルネス」トレンド

4.2兆ドルのウェルネス市場が見込まれています。日本における5つのウェルネストレンドを見ていきましょう。世界のリーダーであるGlobal Wellness Summit (GWS)の第13回国際会議が 2019年10月15~17日、グランドハイアット香港において開催されました。それに先立ち、 GWSは東京でVIP懇談会を開催し、国内外のウェルネス分野における日本の機会や可能性に関して議論を行いました。

懇談会には、ベネフィット・ワン、富士フイルム、Healthcare Laboratory、花王株式会社、森トラスト株式会社、清水建設株式会社、ソニー、ヤクルト本社を はじめとする日本企業の幹部及び役員、並びにGWS理事兼CCOナンシー・デイヴィス氏、さらに 共同議長としてConceptasiaの相馬順子代表取締役社長が出席しました。その時に話されたこと をレポートします。

ウェルネス ツーリズムブーム

6,390億ドルの国際ウェルネスツーリズム市場の中で、アジアはその成長率が突出している地域で す。アジアにおけるウェルネス旅行は、2015年から2017年にかけて33%増という驚異的な増加 を見せ、市場規模は年間2億5800万ドルに達しました。日本のウェルネスツーリズム市場は世界 第5位であり、温泉などの大きな強みを持っているにも関わらず、他のアジア諸国と比較するとそ の成長率は鈍いと言えます。
2015年から2017年の間に、日本は270万件のウェルネス旅行があった一方で、ウェルネスツー リズム分野の成長率で世界1位と2位にランクした中国とインドは、それぞれ2,200万人、2,700 万人増加しました。さらにマレーシアは330万人、ベトナムは320万人増となりました。インド ネシアやフィリピンも含め、2015年から2017年にかけてこれらのアジア諸国が全て20~ 30%、またはそれ以上の成長率を記録した一方で、日本における成長率は3.5%にとどまりました。

アジア圏全体のウェルネスツーリズムによる収益は1,370億ドルから2,520億ドルに倍増するとも 見込まれています。 日本には自らのウェルネス文化と目的地を過小評価しています。
日本にはウェルネス旅行者が渇望しているユニークな財産―独特な温泉文化、僧侶との瞑想、森 林浴、薬と精神芸術を兼ねた「食」が存在します。今後日本が「日本ウェルネス」を打ち出し、 国内のウェルネスツーリズム市場を成長させるための機会は大いにあります。ウェルネスは日本 の確かな強みであり、それをより明確に宣伝すれば、持続可能かつ高収益な観光産業の形成を推 進し得ることは間違いありません。

温泉は旅行者の間でもホットな旅先です。日本の温泉資源は世界に比類がなく、21,000近くの温 泉が存在し、世界の温泉施設の約3分の2が日本に集中しています。

将来的には、別府のインターコンチネンタル、来年にオープンする北海道ニセコのパークハイアッ トやリッツカールトンなどの進出により総合的なウェルネス体験を提供する高級温泉リゾートが増加すると思われます。

近年は日本的な温泉のアジア進出も進んでいて、中国、台湾、東南アジアでは、 極楽湯ホールディングスなどの日本企業による温泉開発が活発化しています。台湾では先日、星野 リゾートが地域初となる温泉リゾートを開業しました。

精神的な癒しと幸福感の探求の2つは、最も強力な世界のウェルネストレンドで、2018年に日本 の寺社を観光客に開放する法律の制定と「寺泊」(寺院の宿泊施設のAirbnb)の出現によって、 多くの旅行者が数多の寺院で禅に触れることができるようになりました。

『森の中で時を過ごす詩的な薬』とも表現される森林浴は、80年代に日本で発展し、近年では世 界的な現象となって、世界中のウェルネスリゾートが毎月新たな森林浴プログラムを打ち出してい ます。 62の森林セラピー認定ロードと、多くの訓練されたガイドを擁す本場・日本で、森林セラ ピーを体験したい旅行者は増加するでしょう。

日本は観光に関して2つの重大な問題に直面しています。まず、オーバーツーリズムが各地の史 跡、京都-大阪-東京ルートのキャパシティを超えてしまうこと、次に、外国人観光客の激増にも関 わらず伸び悩む観光収入という不均衡な状態であることです。

ウェルネスツーリズムはいずれの問題をも解決し得ます。日本は2018年に3,110万人という記録 的な数の観光客を集め、さらに2030年までにその数を6,000万人に倍増させることも狙っていま す。これを持続可能なものとするためには、旅行者を分散させねばならず、戦略的に計画された ウェルネス観光地帯、ルート、およびツアーが必要です。

具体例としては、ハイキング、地元の食べ物や工芸、温泉等のプログラムを含む中部地方の「ドラゴンルート」や、人混みを離れ、地元ならではの食事、温泉、素朴な旅館が味わえる「Walk Japan」等が挙げられます。日本政府観光局は、2020年までに訪日観光客の支出を80%増加させ ることを望んでいると明かしました。ここでも、ウェルネス旅行者が良いターゲットとなります。 平均的な訪日観光客は一回の旅行で1,436ドル消費するのに対し、ウェルネス旅行者は平均2,192 ドル消費します。

脚光を浴びるJ-Beauty

自然由来、機能的、無毒、持続可能な製品が急増し、消費者は修復よりも予防を求めて、1.1兆ド ルの美容市場を一層拡大させています。ここ数年は「K-Beauty」が注目の的でしたが、いまは、 最新の美容トレンドと合っている日本のハイテク&自然由来のアプローチ「J-Beauty」が急上昇 しています。
K-Beautyは、気が遠くなるようなステップ、極めてエキゾチックな製品、最新のカラーとメイク アップトレンド、派手なパッケージを展開し、セレブの支持を得ています。

一方で日本の美のアプローチは、ミニマリズム、予防、保護に焦点を当てています。透明感を強 調するクレンジング方法、王道ではあるが確かな効能を持つ成分、そして高度な科学技術。その 目指すところは、メイク要らずの健康的で明るい「美白」肌です。

美容ビジネスにおける変化は、美容トレンドの変遷を示しています。最近では、ユニリーバが日本 の芸者の美容法に着想を得たスキンケアブランドTatchaを5億ドルで買収するといった動きがあ りました。また、Jill Stuart Beautyの米国進出など、より多くのJ-beautyブランドが急速に存在 感を強めていて、 Estée Lauder等の世界の主要ブランドが、日本的要素を取り入れつつあります。

さらに日本には、美しさに関して非常に未来的な発想があります。資生堂は、横浜・みなとみら いに、76,000平方フィートのS / PARKをオープンしました。

研究所、レストラン、博物館、皮膚診断美容バーを備えたグローバルイノベーションセンターで す。シワ・たるみ補正技術「セカンドスキン」(特許取得済み)や、皮膚の状態や天候を考慮した 上で分析、高度にカスタマイズした製品を提供するOptune等の開発を行っています。

DHC、Ipsa、花王株式会社のポートフォリオ、NatureLab Tokyo、シュウ ウエムラ、SK-II、雪 肌精等々のいずれにせよ、Japanese beautyの機運は高まっていて、これは長期的なチャンスで あると言えます。

スマートハウスと健康未来都市

私たちが日常的に住む場所こそが、我々の健康の80~90%を左右します。つまり、新たなウェル ネス不動産とコミュニティが次のフロンティアというわけです。都市の無秩序な膨張と汚染問題に 悩むアジアは、2022年までに世界最大̶780億ドルのウェルネス不動産市場となります。既に建 設された、または計画中の740件のウェルネス不動産プロジェクトのうち、293件がアジアにあ り、プロジェクト全体の約半分を占めています。現在の日本のウェルネス不動産市場の規模は約 22億ドルで、世界10位に位置しています。

ウェルネス不動産プロジェクトは、「ホームバイオーム」(空気、水、音、光の質)の改善から、 「孤独の時代」に人と人の繋がりを築くコミュニティまで、さまざまな角度から取り組まれていま す。高い技術力を持つ日本には、新たなスマート健康都市・住宅の構築において主導的な役割を 果たすチャンスがあります(この分野は2021年、既に1兆ドルの市場となっています)。スマー トシティ・スマートコミュニティは、電子データ収集センサー、AI、AR、自動運転、遠隔医療な どを使用して、我々の生活環境を根本的に変革します。これは5GおよびNB-IoT技術の発展、普及 よって飛躍的に加速すると思われます。

スマートシティプロジェクトの次の波は、世界の家庭や都市の需要に応える、健康とウェルネス を軸にした新技術の活用です。

フロリダ州タンパ近郊のコネクテッドシティプロジェクトは、住民に最新の医療と予防ヘルスケア を提供するためのテクノロジーが導入された最初の「スマートギガビットコミュニティ」と呼ばれ ています。パナソニックは、神奈川県藤沢市にエネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネ ス、コミュニティに焦点を当てたFujisawaサスティナブル・スマートタウンを構築しています。国 連の予想によると、世界人口の68%は2050年までに都市に居住するようになり、日本は未来の ハイテクウェルネス都市のリードエンジニアになり得えます。

日本のAge-Tech

世界は前例にない速度で高齢化しています。50歳以上の人口は2050年までに倍増し、32億人に 達します。その中でもアジアは最も速く高齢化していて、60歳以上の人口は2010年から2050年 の間に3倍、13億人、つまりアジアの4人に1人が60歳以上となります。

そして、日本は少子化と長寿により、人類史上初の超高齢社会に突入します。現在、日本の人口の 27%が65歳以上であり、2050年までには、現役労働者100人に対して退職者70人という構造と なります。これは日本経済にとって重大な課題であり、高齢化は世界の社会、市場、政府の政策 を大きく変化させていくでしょう。
しかし、変化は、機会ももたらします。西から東へ、老化は積極的に再定義され、クールとすら 言われるようになりつつあります。高齢者向けの製品及びサービスは15兆ドルの巨大な市場であ り、日本は他の先進国もまもなく迎える時代を最初に経験するでしょう。

来たる「長寿経済」を革新する絶好の機会であり、利用者に焦点を当てた独創的な技術とデザイ ンにより、日本は人々のモビリティを維持する技術、シニア住宅の再開発、ソニーのaibo(アイ ボ)のようなロボットペットといった、高齢化する社会を支える製品/ソリューションの先駆者に なり得ます。今後は、ミレニアル世代への狭い執着を超えて、今日の高齢消費者の消費力と新しい 「積極的な老化」の考え方を取り入れるブランドが発展していくと予想されます。

職場における健康:メンタルウェルネスに焦点を

アジアは、「過労」で悪名高く、日本の労働者の5人に1人が『karoshi』(過労死)の危険にさ らされているというニュースは、数年前に世界から注目を集めています。過労は心臓病、肥満、依 存症、糖尿病の原因となり得ることが証明されており、仕事に関連するストレスが、企業に年間 3,000億ドルの費用の負担をかけています。アジアのワークライフバランスの問題は、ヒトとビジ ネスにとって、大きな障害です。アジアの労働者のうち、何らかの形で職場の健康増進プログラム を使える労働者は、5%に限られます。この480億ドルの世界市場において、アジア太平洋地域は 職場の健康に年間93億ドルしか費やしておらず、その影響を受ける労働者はわずか9,300万人で す。

日本は、アジアにおける比較的ポジティブなケースです。日本は米国に次ぎ、世界で2番目に大き い「職場の健康市場」であり、年間39億ドルを費やして、6,600万人の労働者のうち2,140万人 が職場の健康増進プログラムの恩恵を受けることができます。

現在日本では、労働文化を積極的に変えるための、真の改革が進められています。安倍元首相 は、働き方改革を経済の中核課題の一部に位置付け、また企業に対して従業員の福祉向上を支援 するよう求めました。しかし、不安やうつ病など、精神の健康に関する問題が多発しているにも 関わらず、職場では身体の健康・フィットネスに焦点が当てられています。Bloomberg Healthiest Country Indexによると、『日本は世界で4番目に健康な国ではある。』しかし経済 協力開発機構(OECD)によると、『日本人は他の裕福な国の住民に比べ、実際に健康であると 回答する可能性ははるかに低い。』といわれています。

日本の職場からメンタルヘルスの「タブー」を放逐する必要があます。職場における健康増進プロ グラムは、企業文化の改善に焦点を合わせる必要があります。具体的な方策として、誰もがメンタ ルヘルスサービスを利用できる仕組みの構築があります。そして瞑想、ヨガ、健康的な睡眠プログ ラム、麹町テラスオフィスのような、自然を身近に感じる「バイオフィリックデザイン」 (biophilic office design)を取り入れたオフィスなどのメンタルウェルネスアプローチです。また高齢の従業員の業務改革などが挙げられます。

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旅行需要の回復に向けて

富裕層のリベンジ・トラベル

世界では旅行需要の力強い回復が見られるようになりました。 2021年12月、世界各国の富裕層 旅行関係者が集まり商談を行うイベント「International Luxury Travel Market」かまフランス・カンヌで開催され、1000を超える出店ブースが並び盛況を収めました。

富裕層は非常に力強い「リベンジ・トラベル」のパワーをマグマのように溜めていて、Luxury Travel(上質な観光サービスを求める富裕層旅行)へのトレンドが見てとれます。 

それでは世界の富裕層は、旅行に何を求めているのでしょうか。

富裕層の間では数年前から「ウェルネス」への関心が高まっています。

その流れはコロナ禍でいっそう加速しました。

ウェルネスという言葉は、今やスパやエステにとどまりません。

肉体的な健康だけでなく、感情、精神、知性、職業、環境、ライフスタイル、社会的なウェルネスにまで及びます。

インバウンド向けのブランド戦略を考えるときに、日本のクオリティ高い『ウェルネス』環境は 大きな武器になりそうです。

日本の上質なサービス、真心こもったホスピタリティで、富裕層のリベンジ・トラベルの熱い期待を一身に受けとめる体力を持っています。

画像
リッツ・カールトンホテルのスイートルーム

スイートルーム、需要に追いつかず

旅行業界には『リベンジ消費』の兆しはあるのでしょうか?

コロナ禍で変わった点について、パレスホテル代表取締役社長の吉原大介さんの談を紹介します。

「基本的には都心にお住まいの方が、週末利用あるいはステイケーション(近場で休日を過ごす旅行スタイル)で、ホテルでゆっくりされます。

それにしても、インバウンドの穴埋めをするほどの需要はない。企業の出張もまだ制限されていますし。宿泊にリベンジ消費が起きている感はないですね。

唯一あるのは、通常の部屋と比べると、スイートルームの稼働率が高いことです。

コロナ禍になって、あちこち観光するというよりもホテル滞在を旅の目的にする人が増えました。お客さまのホテル滞在時間がものすごく長くなったのが、何よりも大きな変化です。

そういった背景もあり、既存の客室を一部改装してスイートルームを増設しました。広さ90平方メートルの「プレミアスイート」を新しく6部屋造ったことで、スイートルームが18室に増えました。

実はもともと、全客室数290のうちスイートルームが12室だけでは足りず、海外の富裕層を取り逃がしていたという課題があったんです。コロナ禍が収束したら、そこはしっかり取っていきたい。」と述べていました。

2030年に訪日客数6000万人、15兆円

訪日観光はコロナ禍で壊滅的打撃を受けています。

日本政府観光局(JNTO)が発表した2021年 12月の訪日外国人数(推計値)は、1万2100人でした。新型コロナウイルス感染症の影響が出る前の2019年同月比では99.5%減に相当します。

1月から12月までの累計は2019年比、99.2%減 (2020年比では94%減)の24万5900人となりました。

オミクロン株の登場で日本の水際対策は強化され、2021年11月30日以降は外国人の新規入国が 停止となっており、12月はその影響で前月を大きく下回っています。

12月の訪日数を市場別に見ると、中国からの1800人、インドの1200人、韓国の1100人、アメリカの1000人、それ以外は 200~300人で、二桁の国・地域も多くありました。

オミクロン株による感染再拡大で各国・地域から日本への直行便は引き続き大幅な運休・減便となっています。

2021年を1年間通して見ると、1月は4万人台、2月~6月は1万人前後と低迷、東京五輪の始まった7月は年間最多となる5万人を超えたものの、その後は減少し、年間訪日客数の過去最低を 記録しました。 

JNTOの統計にある最も古い記録は、前回の東京五輪開催の1964年、奇しくもその年の35万2832人をも下回る結果でした。

国・地域別では中国、ベトナム、アメリカ、韓国が2万人以上、そのほかは1万人以下でしたが、 トップ5常連の台湾や香港というヘビーリピーターのいる市場からの訪日が少なかったのが目立ちました。総数的にはどこも2019年の1%に満たないところばかりでした。

しかしながら、欧米諸国と比べてコロナの被害抑制に成功したこともあり、各種メディアの調査 などでも、コロナ後に訪問したい国として日本は常に上位にランクインしています。

コロナが収束に向かえば、世界中から日本に観光客が押し寄せることが予想されます。2025年に予定されて いる大阪・関西万博で好機をつかみたいところです。

さて、政府は2030年までに訪日客数『6000万人』『15兆円』という目標を掲げていました。パンデミックという予想外の出来事で目標ははるか彼方に、オミクロン株による感染再拡大で、インバウンド観光業界の明るい展望が描けない状況にあります。そんななか富裕層の『Luxury Travel』需要に期待が集まる理由があります。

Luxury Travel(富裕層旅行)市場からの再興

コロナ禍がある程度収束したとしても、水際対策を考えると一気に数千万人規模の訪日客を受け 入れることは現実的ではありません。

富裕旅行者から段階的に受け入れを再開することで、国際観光を復活させていくのが合理的だと見込まれています。プライベートジェットや隔離された宿泊施設など、安全な旅行手段を確保できる経済力があるからです。

彼らの多くは企業経営者や投資家でもあるため、日本に対する関心・好感度の向上は、日本への 投資拡大につながると期待されます。またインフルエンサーである富裕旅行者による発信は、効果 絶大なプロモーションとなり、日本のブランド価値を高めることにも貢献します。

1人100万円以上を使う富裕層とは一体どんな人たちなのか?

現在は新型コロナウイルスの感染拡大により大打撃を受けているインバウンド業界ですが、それ 以前の政府の取り組みに目を向けてみると、インバウド促進による経済活性化に注力し、中でも1 人あたり単価の高い富裕層の誘致を盛んに行っていたことがわかります。

富裕層とはどんな人々でどういった思考のもと旅行をしているのでしょうか。そして、その富裕層は日本で満足をし、 日本のインバウンド業界に恩恵をもたらすことになるのでしょうか。

JNTO(日本政府観光局)が膨大なリサーチをして捉えた世界の富裕層の姿、行動の実態につい て、またなぜ政府が『Luxury Travel』誘致に注力しているのか、JNTO市場横断プロモーション 部の小林大祐氏は次のように話しています。

政府は2020年に訪日外国人数4000万人、訪日消費額8兆円を目標に掲げています。しかし、 2019年の訪日外国人数は約3188万人、消費額は約4.8兆円という結果でしたので、特に消費額が 目標に届いていないという状況です。

1人あたりの単価は中国人観光客の「爆買い」ブームをピー クに緩やかに下がっていますので、人数が増えても消費額全体は伸びないというのが現状です。

そこで、いかにして消費額を上げていくのかを考えた時に、1人あたり単価の高い「富裕層」という キーワードが浮かび上がってきました。支出する余力のある人たちは、旅行先でも価値あるものに対してお金を惜しみません。

こうした理由から、JNTOでは富裕層への取り組みに力を入れてい ます。

消費額が上がるという直接的な効果はもちろんですが、それ以外にも副次的な効果があります。 富裕層の中には社会で活躍している方々や芸能人など、トレンドを作っている人が多いため、トレンドセッター的な役割を果たしてくれます。彼らの間で特定の旅行先が流行りだすと、一般の旅行者や消費者もそれに追随するのです。

富裕層マーケットの訴求キーワードには「特別な体験」や 「本物の価値」というものがありますが、日本はアジアの競合国をはじめとした他国にはない独自の観光魅力を有しているため、富裕層旅行者の取り込みが増加するポテンシャルは十分にあると考えています。

世界の地域別に見ると、富裕層が最も多いマーケットはアメリカで、次に多いのがヨーロッパです。

そして最近勢いがあるのはアジアで、中国を中心にどんどんマーケットが大きくなっていますし、将来的にはさらに市場が膨らんでいくという予測が立てられています。

マーケットサイズは小さいけれど「超富裕層」が多く存在するのは、カタールやクウェート、UAEなどに代表される中東です。中東には超富裕層が多いため、富裕層の中でも1人あたり単価が特に高いということです。

例えばUAEのエリートたちは大学を卒業した直後の初任給が約1000万円で、医療費や教育費、固定資産税、相続税などが一切かからないため、お金がどんどん貯まっていくそうです。彼らの中には、昼間からショッピングモールのカフェでのんびりしている人がすごく多い。

なぜなら、お茶をしながら電話で仕事の指示を出して、細かい仕事は部下や外国からの移民労働者に任せているからです。

お金も時間もある彼らですが、イスラム教徒なので「お酒を飲んではいけない」「ギャンブルをしてはいけない」など、自国では厳しい戒律のもとで暮らしています。

普段の生活では欲求を制限している分、海外に出た時ぐらいは少し羽を伸ばしたいという方も実は多い。

お金と時間があって旅行好きとなると、マーケットとしては非常に有効ですので、JNTOとしては昨年から 中東マーケットの開拓に取り組んでいます。

明確なプロモーションを打ち出すため、JNTOではまず調査に基づいたターゲットの定義づけをし ています。

「お金を持っている」「海外旅行をよくする」「旅行先でお金をたくさん使ってくれる」 人に絞り込みます。

さらに「海外旅行先で1人1回あたり100万円消費する人」をプロモーション ターゲトットとなる富裕旅行者と位置付けました。

昨年の訪日外国人の1人あたり単価が約15万円でしたので、100万円という金額が現実からかけ離れているように感じられるかもしれません が、調査によると実際にこれだけのお金を1回の旅行で使っている人がそれなりの規模で存在するということもわかっています。

富裕層の多い「欧米豪」マーケットの中でもアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアの5市場に限定した調査では、1年間で1回以上海外旅行をしている人が、約3億4100万人いたという結果が出ています。

そのうち、1回あたり100万円を使った人は全体の1%、

つまり約 340万人存在するという数字が割り出されました。

3億4100万人の人が海外旅行で消費した額は 年間35.8兆円ですので、1%の富裕旅行者は全体の13%に相当する約4.7兆円を消費していること がわかります。

JNTOではこの4.7兆円が狙いに行くマーケットだということを整理してプロモーション活動をしています。

さらに国別の数字を見てみると、やはり最も大きな富裕旅行市場はアメリカで、人数・消費額と もに5カ国計(340万人、消費額4.7兆円)の半数以上を占めています。

JNTOが行った調査では1人あたり単価が1回136万円となっているため、現在の平均15万円と比べると約9倍であることがわかります。オーストラリアは数のボリュームは少ないのですが、1人あたり単価は296万円と なっています。

富裕層の旅行ニーズに対応するもっとも大きな狙いは観光収入の向上を通じた経済成長です。世界の富裕旅行市場は、国際観光の中でも高い成長率を示すセグメントになっています。

JNTOの調査でも、一般の訪日客の10倍以上を消費する旅行者が多数存在することが明らかになりました。 

1000万円以上の消費行動が見られる層も一定数確認されています。

実際、現代アートや古美術品、伝統工芸、高級衣服、宝飾品などを購買する主力は富裕層です。インバウンド富裕旅行の増加は地域の消費拡大、国民所得の向上に大きく貢献します。

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ラグジュアリークルーズの黄金律.2

最良の船上体験価値を演出する滞在環境とは、以下の6つが掲げられるかと思われます。

  1. プロダクト
  2. コンテンツ
  3. ソフト
  4. 旅行商品
  5. 商品企画
  6. 滞在価値

そしてこれらの要素が織りなす演出によってゲスト一人ひとりの人生観を加えることによって構成されるのです。

ラグジュアリークルーズのゲストはストーリを評価する

ラグジュアリー・クルーズのゲストは、旅のストーリーとゲスト自身が歩んできた人生を旅の「ストーリー」として作り上げることを好まれる傾向があります。

今から遡って約30年以上前の1988 春、クリスタルクルーズ社は、これから造る新造船の建造と同時に、船上での滞在環境の構築に多くの時間が割かれていた様子でした。

まったくゼロから立ち上げる新会社の、それも新造船を導入する以上、その構想は 2〜3 年のレンジで描く必要性があったのです。

新造船の建造は設計段階がある程度まとまれば、後は造船所の強い意思の元で、予定通りのプログラムで建造が可能かと思われていたのです。

その新造船の就航まで 2 年間の準備期間の間は、この新しいクルーズ運航会社の将来の勝負が決まると考えていたのです。

そこにはクルーズ客船事業を構成する、客船というハードと船上での滞在環境というソフトの 2 つの側面からのアプローチが必要でした。

これから始めるクルーズ客船会社に乗船するクルーズ船客の滞在の舞台は、船 (ハード部分)と、 その配船先や船上での滞在環境(ソフト部分)で構成されているのです。

特に船は、船主、投資家である NYK(日本郵船)が中心に主導的に展開する部分であるが、 営業活動に加えて目的地・配船先や船上での滞在環境・舞台環境の構築は、その運航会社が主として担う仕事です。

ハード部分の客船の基本デザインにおいては、既に対象とされたロイヤル・ バイキング社の船など想定競合船社が存在していたので、その前例と具体的に相対的検証ができ、その対応は容易であったのです。

日本の持つ”モノ造り”の技術を積極的に取り入れることにより、費用対効果や利用者の 利便性などを考慮しても、方向性の確認に、それほどの議論は無かったのです。

しかし船という「モノ」の部分は、当初は珍しく感激を与える事が出来ても慣れやすくて、飽きられやすい傾向があるのです。

客室をはじめとする船上における各種の公室や施設などは、技術革新を基にした利便性と目新し さなどにありがたみを感じても、1週間も滞在していれば慣れで新鮮さも薄らぎ、その 優越性に対する評価も忘れられやすいモノです。

また、造船所で図面が書かれた段階で、その技術革新の提案は、他の会社が模倣し追従したりされやすいので、その客船の持つ利便性や長所だけで長い間売り込むことには限りがあるのです。

クルーズ船客の嗜好やライフスタイルの変化などの進 化の度合いによっては、折角の船上の居住環境(特に部屋のサイズ)も、数年で陳腐化するのです。

クルーズ会社は旅のメモリークリエータ

これから始めるクルーズ客船事業は、物流とは異なり、船だけでは成り立たないのです。

このプロジェクトの成否を決めるのが、船上における滞在環境です。クルーズという旅行商品は、これを利用する顧客の旅のドラマであり、ゲストのストーリーを演出する商品なのです。

ゲストの多くは、旅が持つプロセスを3D化したストーリーに期待して、数ヶ月、長ければ数年前から、旅の過程を想像することから始まるのです。

これからこのラグジュアリー・クルーズ業界で生きていく為には、 船上でクルーズ乗船客が楽しめる環境創りを指す滞在環境こそが、この事業の要なのであり、クルーズ運航会社がその責任を担うことになるのです。

クルーズ旅行に魅せられたアメリカのクルーズ乗船客は旅の目的地のみならず、 船上での人との交流など、旅のプロセスに、より興味を示す人たちが中心なのです。

船上でのライフスタイル を求めてくるクルーズ船客に対して、今まで経験した事のないような快適な環境と充実した船上での日々を演出しなければならないのです。

この新しい事業は旅行者に、船上での体験と社交の時を刻み、旅の記憶を売る仕事であり、アメリカのラグジュアリー・クルーズ業界に参入し成功するためには、その旅の記憶を脳裏に刻む環境づくりと怯むことのない革新的な発想の導入が必要なのです。

その実現のためにはホスピタリティ事業の心臓部であるソフト(船上での生活体験の演出)の仕掛け作りが最優先の課題である事を認識する必要があったのです。

クルーズ会社は旅のメモリークリエーターと言える所以なのです。

既存の有力競争相手と互角、あるいは彼らの上を行くためには、これから誘客するクル ーズ乗船客層に、強烈なインパクトと感動を与えるような船上での滞在環境の仕掛けが必要でした。

サ ービスとソーシャルの基本に在る「ヒトとヒト」のケミストリーを前面に出した船上での滞在環境を演出し、クルーズ旅行者が人との出会いで織り成す感動と、心に思い出を刻む仕掛けが求められるのです。

その演出には、新会社の”個性”が、最も重要であったのです。その個性は、 この新会社が、船というハードの上に実現されるサービス・コンテンツ。

即ち、サービスの中身と船上で生活する人たちが醸し出す生活・ソーシャルが、既存のラグ ジュアリー・クルーズ客船社を凌駕するような独自性に溢れた舞台装置であり、それがこの事業の成否を決めると理解していたのです。

他社にない独自性が 実現できれば、当初の目標である新会社のブランドの価値が、この業界やゲストに認知されるに違いないと認識していたのです。

各種の調査を通してこの船上での体験価値を演出する最重要なポイン トは、客層と彼らのライフ・スタイルの分析であり、この願いを定めた客層の絞込んだ顧客が「何を望むか」が最も重要です。

しかも数年先も予見しながら見極めると同時に何を嫌がるかのネガ ティブな要因を出きるだけ取り除く商品構成にあると判断していたのです。

しかし、船上でのサービス・プロダクト、すなわち「船上での滞在体験」を演出する知識は、クリスタルクルーズの親会社のNYK(日本郵船)は全く持ち合わせていなかったのです。

すでに各種の調査や専門家との交流を通して、この企画・構想の段階からある程度の共通認識は持っていたが、その細部にまで思いが至らなかった。この分野は日本郵船が優れた貨物船を多く所有し運航していても、それが生かされない 未経験の分野でした。

既存事業の成功事例は役に立たない

クルーズ事業は貨物輸送と違い、目的地に早着が至上と言うものではなく、物言わぬ貨物 と異なり、個々のクルーズ船客がそれぞれ「主観」を持っている以上、限られた空間にクルーズ船 客を詰め込めば採算が上がるというものではないのです。

詰め込みにより消率席を追及しがちな「モノ」 の輸送とは全く違うビジネスである。

乗船客には、効率や詰め込みなどは馴染まないものです。乗船中も広い生活空間を利用して、クルーズゲストがゆったりと自らのライフスタイ ルを維持しながら満足するような舞台装置が極めて重要です。

採算向上のために、サービスの中身やそれを演出する備品の手抜きは、何度も乗船するリピーターにとっては、前回と何かが違うと疑念を生むのです。

その結果、次回のクルーズは無言でこの船から離れて行き、他の会社の船に移るというのがこの 業界の常識でもあったのです。

その離反船客や販売網の傾向が強まればこの業界では敗者となり、 他社の手に落ちる事になる。ここに、高額商品であればあるほどコストパフォーマンスが重要になるのです。

船上滞在コンテンツの構築が要

この船上プロダクトの構想には、この業界を熟知する人たちのノウハウを「蔵き台」 にするのが良かろうという判断であった。この視点から、早い段階 から適任者を仲間に入れる必要がありました。

船上でのホテルプロダクトと言う環境滞在の構築と共に、実証するプロダクトを持ち合わせない新会社が描く船上コンテンツというソフトに対する構想を、新造船が就航するまでの 2年間のうちにアメリカ・マーケットの旅行代理店網などに対して、期待を持続させる仕掛けが必要だったのです。

旅行代理店網に提示するホテルコンテンツがないゼロから出発する会社としては、 マーケットに対してひたすら期待と納得をさせ続ける必要があったのです。

そこで新しいラグジュアリー・クルーズのコンセ プト を作るキャステングを前面に出す戦略を考えたのです。

新会社のコン サルタント・チームなど幹部に対するこの業界における信用度と、これから雇う 船上で働く人材を前面に出して、船上のパーフォーマーである乗組員という人財で、 マーケットや販売網に訴え掛ける方策を考えたわけです。

また同時に、これから、船上のプロダクト構築の過程で、早い段階から将来のクルーズ乗船客のみならず、共存共栄の不可欠な関係にある旅行代理店など販売網を取り込むことが重要でした。

このため、新造船の建造スケジュールやタイム・ラインに合わせ、彼ら の知識や宣伝・プレスなどの積極的な参加を促し、マーケットが新しいクルーズ客船運航会社の商品企画に積極的 に参加する環境を作るという工程を描いていたのです。

これにより、新しいプロダクトに対する期待感を更に高め、クルーズゲストにとって快適な環境を演出する努力を重ねたのです。 

またブランド構築の過程でも、船上の滞在環境構築の段階から、彼らの力を大いに活用することが、この事業には必要でした。

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